覚え書:「書評:造反有理 精神医療 現代史へ 立岩 真也 著」、『東京新聞』2014年03月30日(日)付。

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造反有理 精神医療 現代史へ 立岩 真也 著  

2014年3月30日

◆人間的回復を期した闘争
[評者]佐藤幹夫=ジャーナリスト
 一九六○年代から七○年代、日本の各地で政治運動の嵐が吹き荒れていた時、精神医療に携わる医師たちにあっても、政治の闘いが自らの医療を問うことであるような運動が繰り広げられた。どの政治闘争もそうであったように、激しい内部抗争があり、分派につぐ分派が繰り返された。まして、それまでの精神医療が抱えもっていた深い暗部と治療理念を巡る批判・対立が同時進行していたから、何が何のために争われているのか、部外者にはあっという間に見当がつかなくなった。
 本書は、そのような全貌の把握など絶望的に困難な、六○年代末を中心とした「政治運動と精神医療」を取り上げ、どんな言説が闘われていたかを検証すべく試みている。
 六八年の東大医学部の赤レンガ闘争。翌年の通称「金沢学会」。中心となった医師たちは後に「造反派」と呼ばれるが、彼らによって批判されたのは病院の悲惨な収容所的状況、教授を頂点とした医局講座制という権力構造、そして加速していた保安処分的動向だ。さらには治療。なかでも社会防衛を色濃くさせた電気ショック療法や大量の薬物投与。はてはロボトミーという脳の切除手術。その裁判や電気ショックの記述は息を呑(の)む。
 一方、生活療法、作業療法といった治療活動に患者の人間的回復の活路を見いだそうとする医師たちもいたのだが、その試みも管理と経営の論理に取り込まれたと批判される。そして造反派の医師たちの一部は、医療そのものを否定する「反精神医学」へと至る。
 反対派からは、この闘いは「研究的に空白の時代」を作ったとされた。しかしそうか。著者はそれを問い返し、膨大な証言や文献を掘り起こしながら造反派の「理」を検証しようとする。その作業は同時に、精神医療は何をしてきたのかと論議できる場そのものを初めて提示し、迷路のような暗部をいまに繋(つな)げる検証の場とする果敢な試みとなった。
 (青土社・2940円)
 たていわ・しんや 1960年生まれ。立命館大教授。著書『自由の平等』など。
◆もう1冊 
 岡田靖雄著『日本精神科医療史』(医学書院)。奈良時代から現代まで、医学・病院・法律などに基づく精神科医療の歴史を概観。
    −−「書評:造反有理 精神医療 現代史へ 立岩 真也 著」、『東京新聞』2014年03月30日(日)付。

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