覚え書:「どう動く:集団的自衛権・識者に聞く 阪田雅裕・元内閣法制局長官」、『毎日新聞』2014年04月17日(木)付。

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どう動く:集団的自衛権・識者に聞く 阪田雅裕・元内閣法制局長官
毎日新聞 2014年04月17日 東京朝刊

 ◇解釈変更では限界

 「そもそも憲法9条集団的自衛権の行使が可能と読むことはできない。国民の間で、定着した読み方を変更するのではなく、条文を変えて国民に是非を問うのが当然ではないか。憲法に改正手続きの規定があり、国民投票法改正案もようやく成立する見通しになった。政治は憲法改正の努力をすべきなのに、その形跡はない。今ある法律を適宜解釈して運用すればいいというのでは、『法治』ではなく『人治』だ。日本は法治国家をやめることになる」

 憲法96条は改正手続きについて、衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が改憲案を発議し、国民投票過半数の賛成が必要と定めている。安倍晋三首相はまず同条を改正して改憲のハードルを下げようとしたが、世論の支持は高まらなかった。一方、自民党内には「解釈変更で集団的自衛権の行使を認めれば、本来目指す改憲が遠のくのではないか」という意見も根強い。

 「集団的自衛権行使の限定容認論には無理がある。『必要最小限度の集団的自衛権』は政治的な落としどころとしては聞こえがいいが、それをだれが判断し、限界をどう定めるのか、いくら考えても分からない。これは必要だといえば何でもできるし、反対に、一緒に戦う国を少ししか手伝わないのではあまり意味がない。

 自衛隊が海外で武力行使できるようになれば、(9条で禁じている)『陸海空軍その他の戦力』との違いの説明も非常に難しいだろう。9条の縛りを全部取り払うことになる。今の行使容認論は、憲法の読み方として限界を超えている。解釈ではなく主張だ。集団的自衛権を認めた国連憲章憲法に優先させるのは論理の逆立ち。これは護憲、改憲というレベルの問題ではない」

 政府はこれまで、必要最小限度の自衛権の行使は憲法上認められるとの立場をとってきた。首相は自民党幹事長時代の2004年、「『最小限度』は数量的な概念なので、この範囲に入る集団的自衛権の行使もあるのではないか」と国会で質問。内閣法制局は「自衛権行使の要件を満たしていないという意味であり、数量的な概念ではない」と答弁した。

 「集団的自衛権の行使容認は外務省の積年の思いだ。『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』(安保法制懇)のメンバーも同省と関わりのある人が多い。彼らは内閣法制局を目の敵にした。しかし、法制局は勝手に解釈を考え、歴代内閣に押し付けてきたわけではない。吉田茂内閣での自衛隊憲法の関係をはじめ、歴代内閣の安保政策を前提に議論し、政権側も納得して採用してきた。法制局を批判するのではなく、戦後の政府の路線が間違っていたとはっきり言うべきだ」

 自衛隊の国際的な活動の拡大を目指す外務省は、内閣法制局と長年激しく論争してきた。イラククウェートを侵攻した1990年の湾岸危機の際、自衛隊多国籍軍を後方支援する「国連平和協力法案」(廃案)をとりまとめた外務省の柳井俊二条約局長(当時)は現在、安保法制懇で座長を務める。首相は昨年8月、同省出身の小松一郎駐仏大使を法制局長官に抜てきし、「外務省シフト」が鮮明になっている。【構成・木下訓明、写真・矢頭智剛】=随時掲載

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 ■人物略歴

 ◇さかた・まさひろ

 1943年、和歌山県生まれ。東京大卒。大蔵省(現財務省)、通産省(現経済産業省)勤務などを経て、2004−06年まで小泉内閣内閣法制局長官を務めた。現在は弁護士。編著に「政府の憲法解釈」。 
    −−「どう動く:集団的自衛権・識者に聞く 阪田雅裕・元内閣法制局長官」、『毎日新聞』2014年04月17日(木)付。

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