覚え書:「書評:【極私的】60年代追憶 太田 昌国 著」、『東京新聞』2014年04月27日(日)付。

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【極私的】60年代追憶 太田 昌国 著

2014年4月27日


◆思想が熱かった時代
[評者]三上治=評論家
 東京オリンピックを真ん中に、六○年安保闘争で幕が開き、終局には全共闘運動があった十年間。新幹線が開通し、経済は高度成長に入り、人々の生活はそれ以前と大きく変わった。後代からも輝ける一九六○年代ともいわれるその時代に青春期を送った著者による追憶=再考が本書の骨格である。六○年代が著者に色濃く記憶されるのは、時代を彩った世界史的な精神=思想の深さと広がりだ。それは政治や文化の多様な展開を根底で支えたものだった。書名の「極私的」も、思えば六○年代を象徴する言葉だ。
 一方、現在は六○年代の時代相とは大きく断絶している。時代精神の行方や輪郭が定かでなくなっているからだ。ベトナム体験のこと、北朝鮮拉致問題赤軍派のこと、内ゲバ事件での死、さらに六○年代に活躍した清水幾太郎吉本隆明の思想的なその後の追求にも、再考や反省がなされるが、こういう往還する時代の記憶や認識作業には共感したい。
 六○年代に人々を熱くした思想とは何であったか。それは米ソ体制(世界)と近代西欧(時代)を共に超え、未来に出ようとした思想であった。しかしその精神的存続は困難であって、それが現在の閉塞感(へいそくかん)とも関係している。どうしてだろう? その問いを繰り返し、現代と重ねながら著者は精神のリレーを託してゆく。そんな六○年代に出会う格好の本だ。
インパクト出版会・2160円)
 おおた・まさくに 1943年生まれ。評論家・編集者。著書『暴力批判論』など。
◆もう1冊 
 熊切圭介著『繁栄と変革』(展望社)。人々のライフスタイルが大きく転換した六○年代の光と影を撮った写真集。
    −−「書評:【極私的】60年代追憶 太田 昌国 著」、『東京新聞』2014年04月27日(日)付。

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