書評:小坂国継編『大西祝選集III 倫理学篇』岩波文庫、2014年。

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小坂国継編『大西祝選集III 倫理学篇』岩波書店、読了。理想主義的進化説を正面から取り上げた東京専門学校講義録『倫理学』および3つの倫理学講演(1,古代ギリシア道徳哲学とキリスト教道徳の対比、2,ギリシア人の道徳観からキリスト教への道徳観への移行、ストア哲学と武士道の対比)を収録。

未完の大著『倫理学』で大西は倫理学が道徳的理想を樹立する学問と捉えた上で、東西の倫理学説の吟味と批評を行う。俗に「自前の学問」としての「咀嚼」は和辻哲郎の如き昭和前期を待つというが、なかなかどうして。その繊細かつ明晰な批評に驚く。

講演「古代希臘の道徳と基督教の道徳」。古代ギリシアの道徳と基督教のそれの比較・対照で、前者が調和・知識・現世主義、後者が神意的・信仰・愛を特色とし、近世欧州の道徳の底流を二つと見る。開国後の日本はどう向き合うのかと締めくくる。

講演「希臘道徳移于基督教道徳之顛末」。先の講演が相違重視に対し、本講はその移行に焦点が置かれている。理性的思索が宗教的に振れる中での継承と見るとが、ローマ時代のその接続は、転換期の当時の日本も例外ではない(混沌としているが

講演「ストアの精神と武士の気風とを比較して我が国民の気質に論じ及ぶ」。ユニテリアン教会での講演で、ストア賢者と武士の気風を比較し、同相違・長短を論じ、日本人の気質を論じている。新渡戸『武士道』出版の5年前だが、その正確さに驚く。

前世代の井上哲治郎の「受容」と「理解」が噴飯に終始したのに対し、(大西自身の天才ささもさることながら)明治20年代の西洋理解と照射される自己理解と創造の卓越さには度肝を抜かれる。平行して田辺元を読んでいるが比べるまでもない。

中公バックス世界の名著『アウグスティヌス』は山田昌先生の手によるもの。解説は自身の学生時代の思い出から始まるが、学生時代、田辺元が「即」「即」と強調していたとチラリと書いてあった。しかし、東西に普遍的に散見される「即」の原理とは、そういうお子さまじみたものぢゃあなかろうに。

大西祝の父親がユニテリアンで、本人は新島襄から受洗しているが、その信仰はどうだったのだろうか関心が強くある。同時に姉崎正治を介した関わりですが、明治中期から大正前期にかけては、やはりユニテリアンが諸宗教の「協会」「ネットワークの翠点」として機能していることにも驚く。こちらも再着手したいところだけど。

大西祝は大学院の頃から関心のあった研究の対象。目前の課題を消化するなかで、ちかいうちに手をつけたい、とぐっと思ったりです。ともあれ、岩波文庫で「選集」化(三分冊)され、その主著を手軽に紐解くことが出来ることは喜ばしいこと。日本思想史とは他者理解と自己理解の実験場だからね。

大西祝選集III』岩波書店、解説で小坂先生が紹介してるけど、清沢満之の没後25周年追悼記念会で西田は「従来日本には哲学研究者は随分あるが、日本の哲学者といふべきは故大西祝と我清沢満之であろう」(吉田久一『清沢満之』)と語ったそうな。清沢をほめるのは当然としても、大西が出てくるw

次はこれを読んでおかないとね。 小坂国継『明治哲学の研究 西周大西祝岩波書店 http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/3/0249530.html … 「日本哲学の黎明期である明治の哲学の形成過程,特性を分析・解明する待望の研究書」. 








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