覚え書:「【書く人】時代つくった「梁山泊」 『「現代思潮社」という閃光』 文筆家 陶山 幾朗さん (74)」、『東京新聞』2014年06月15日(日)付。

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【書く人】時代つくった「梁山泊」 『「現代思潮社」という閃光』 文筆家 陶山 幾朗さん (74)

2014年6月15日


 かつて現代思潮社(現在は新社)という出版社があった。小さいながら、一九六○〜七○年代の文化の先端を拓(ひら)き、異彩を放った出版社だ。メルロ = ポンティ『ヒューマニズムとテロル』、サド『悪徳の栄え』、吉本隆明『異端と正系』、埴谷雄高不合理ゆえに吾信ず』、R・バルト『神話作用』、オウエル『カタロニア讃歌』、「トロツキー選集」など、当時の社会や文化に亀裂を入れる起爆剤のような本を数多く出した。
 陶山(すやま)幾朗さんは六五〜七一年、その全盛期に編集者として働いた。社主は後に道元研究で知られる石井恭二、先達には評論家となった久保覚松田政男らがいた。本書は陶山さんの編集をめぐる経験や逸話、会社の様子を回想した記録だ。
 「一冊にまとめる意図もないまま、石井さんが作った<出版総目録>を参照し記憶を振り絞って書いた。<良俗や進歩派と逆行する悪い本を出す>が社のモットーで、澁澤龍〓・森本和夫・栗田勇さんたちが編集部に年中集まって、談論していた。話が終われば編集室はそのまま花札や麻雀(マージャン)の道場に。次から次へといろいろなことが起こり、警察のガサ入れもあった。さながら梁山泊(りょうざんぱく)でした」
 触れれば火傷(やけど)しそうな疾風怒濤(どとう)の時代だ。こんな時代は二度とこないだろう。現代思潮社の本はソ連や日本の共産党の前衛神話を打ち砕き、エロティシズムの想像力に形を与えた。知的ミーハーの群像を育て、マイナー文化やポストモダンの流れを準備した。「長老は眉をひそめ若者に人気」の出版社だったと言う。
 退社後の陶山さんは愛知県の実家に戻り、北川透さんが主宰する「あんかるわ」などに寄稿。現代思潮社時代から旧知の内村剛介さんと再会し取材を始め、それは後に「内村剛介著作集」(全七巻・恵雅堂出版)の編集として結実する。
 戦後、ソ連で十一年間の抑留監獄生活を余儀なくされた内村さんとの長い交流は、「党に抑圧管理される民衆というありがちなイメージではなく、それは上面でロシアの民衆はどっこいしぶとく生きていた」ことを教えられたと言う。
 当時とはメディアや文化のあり様も大きく異なる。現代思潮社の在りし日の姿は一瞬の「閃光(せんこう)」の記憶にすぎないのか。それとも今の出版のあり様を再考させる導火線になり得るのか。
 現代思潮新社・二五九二円。 (大日方公男)
 ※〓は彦の立が文
    −−「【書く人】時代つくった「梁山泊」 『「現代思潮社」という閃光』 文筆家 陶山 幾朗さん (74)」、『東京新聞』2014年06月15日(日)付。

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