覚え書:「書評:高齢者が働くということ ケイトリン・リンチ 著」、『東京新聞』2014年06月15日(日)付。


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高齢者が働くということ ケイトリン・リンチ 著

2014年6月15日


◆生きている実感得る
[評者]中沢孝夫=福山大教授
 本書は米国ボストンの郊外にある約四十人が働く、特殊な注射針などをつくる工場(ヴァイタニードル社)の物語である。この工場の半数以上の従業員が七十四歳以上であり、最高齢者は九十九歳。元ウエートレス、元自動車工、元建築士など、前歴は多彩だ。みなパートタイムだが、共通するのは、いつまでも仕事に従事し、賃金を受け取り、いつも仕事の工夫(日本で言えば改善)をして、仲間とのコミュニケーションを大切にし、社会と関わっていることを実感していたいという意思をもっていることである。
 仕事内容は、針を削ったり、それを注射器に添付したり、製品を梱包(こんぽう)したりといろいろだが、従業員はみな仕事熱心。早朝三時半から出勤する人とか、勤務時間はバラバラだが、企業として立派に利益をあげている。一九三二年の創業で、今の社長は四代目だ。高齢社会化の中で彼らを経済的・社会的に支える試みとして同社は世界のマスコミから注目され、働くこと、老いること、人生の意味、といったことを改めて考えさせてくれる。
 本書にも記されるように、日本の高齢者の就業率はとても高い。評者の取材する中小企業でも、七十歳を超えている人が働いているのは一般的だ。また彼らの心象風景は本書の登場人物と共通している。生きる上での「働くこと」の重要性を実に見事に描いた本である。
 (平野誠一訳、ダイヤモンド社・2592円)
 Caitrin Lynch 米国オーリン大准教授、人類学。
◆もう1冊 
 徳間書店取材班著『最高齢プロフェッショナルの教え』(徳間書店)。八十歳を超えて第一線に立つ職人や達人を取材。
    −−「書評:高齢者が働くということ ケイトリン・リンチ 著」、『東京新聞』2014年06月15日(日)付。

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