覚え書:「スクリプターはストリッパーではありません [著]白鳥あかね [評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)」『朝日新聞』2014年06月22日(日)付。

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スクリプターはストリッパーではありません [著]白鳥あかね
[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)  [掲載]2014年06月22日   [ジャンル]アート・ファッション・芸能 

■映画愛に溢れた記録係の一代記

 スクリプターという職業をご存知(ぞんじ)だろうか? 語感が似ていてもストリッパーとは全く違う。映画の撮影現場で監督につきっきりとなり、ワンカットごとの記録を採るのが仕事である。だが実際には単なる記録係に留まらず、監督の相談役、「女房役」ともいうべき重要な役割を担っている。本書は、日本映画を代表する名スクリプターの、聞き書きによる自伝である。
 戦前のリベラルな家庭に育ち、大学では仏文学を専攻、新藤兼人監督の現場に参加したのをきっかけに映画にめざめ、日活に入社、斎藤武市監督の〈渡り鳥シリーズ〉や『愛と死をみつめて』等、日本映画黄金期を彩る大ヒット作、名作の数々でスクリプターを務め、日活がロマンポルノに転じてからも神代辰巳根岸吉太郎池田敏春など才気溢(あふ)れる監督の現場で活躍した。日活退社後もフリーランススクリプターとして手塚眞岩井俊二など気鋭の新人監督の作品に参加、現役を引退してからはスクリプター協会の設立や、市民参加型の映画祭の運営に尽力している。
 白鳥氏は現在八十一歳。あとがきには「映画人生をスタートさせた新藤兼人監督の『狼(おおかみ)』から今年はおよそ六十年目になります」とある。だが、ここには「失われたもの」へのノスタルジーは感じられない。確かに映画製作の苦楽を共にした監督たちの何人かは既に亡く、映画界も映画環境も大きく様変わりした。しかし数々の映画のエピソードを語る言葉は、あくまでも快活でユーモラスで、友愛に満ち(それゆえに時に辛辣(しんらつ)で)、とにかくシャキッとしている。スクリプターのみならず、シナリオライターや出演までこなした白鳥氏のユニークなキャラクターと破格のヴァイタリティが、一言一言から響いてくる。全編、映画愛のみならず、人生を力強く肯定するエネルギーに溢れている。無類に面白く、そして感動的な一代記である。
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 国書刊行会・3024円/しらとり・あかね 32年生まれ。元スクリプター。第37回日本アカデミー賞協会特別賞。
    −−「スクリプターはストリッパーではありません [著]白鳥あかね [評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)」『朝日新聞』2014年06月22日(日)付。

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映画愛に溢れた記録係の一代記|好書好日





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白鳥あかね
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