覚え書:「今週の本棚・本と人:『殺人出産』 著者・村田沙耶香さん」、『毎日新聞』2014年07月20日(日)付。
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今週の本棚・本と人:『殺人出産』 著者・村田沙耶香さん
毎日新聞 2014年07月20日 東京朝刊
(講談社・1512円)
◇正義と命の根幹を疑う−−村田沙耶香(むらた・さやか)さん
「世界の美しさを信じている人の純粋さに、私はあこがれているのです」。とはいえ本作で構築したのは、殺人が悪ではない世界だ。極端な思考実験を伴うSFであり、読めば、固いはずの地面がぐらりぐらりと揺らぐ感覚を楽しめるだろう。
主人公の育子が生きる世界では人工授精が当たり前になり、セックスは愛情表現と快楽だけの行為。女性は子宮に避妊処置をするのが一般的だ。すると人口が極端に減ってきた。そこで、恋愛や結婚とは別に命を産み出す合理的な「殺人出産制度」が生まれた。
誰か殺したい人がいれば「産み人」になり、10人産めば殺人が認められる。産み人は尊敬を集める存在だ。一方、単に殺人を犯せば逮捕される。そして死刑ではなく、男であっても人工子宮を埋め込まれて、監獄の中で死ぬまで命を産み続ける「産刑」に処せられる。
育子の姉は17歳で産み人となり、20年かけて務め上げた。さて誰を殺すのか。この制度にあこがれる従妹(いとこ)のミサキと、「この世界は狂ってる」として“正義”を改めるべく活動している職場の同僚の早紀子が姉妹に関わってくる。
荒唐無稽(むけい)な設定とも思うが、「『(太平洋戦争の)終戦で正義は変わったから、世界を信じていない』という年配の方がいらっしゃいました。自分たちの根幹を疑って分解してみたいんです」。そういえば、戦争や死刑は見方を変えれば国家による殺人といえる。育子の世界に生きれば、私たちはどう行動するのだろう……?
併せて収録された短編3本も出色の村田ワールド。「トリプル」は3人での恋愛が若者の間で流行している世界を冷ややかに描く。「清潔な結婚」の<医療行為としてのセックス>の場面はブラックユーモアを突き抜けており、爆笑させられた。
人物の背景を真っ白に描く筆に特徴がある。原風景は、自身が育った千葉県のニュータウンだ。見た目も暮らし向きも、異様なまでにクリーンで均質な町と人々。それらが、不気味な味わいの小説創作に生きている。世界に憎悪を抱いているのか? 「いえ、世界は好きです。むしろ愛をもって書いています」。生と性だけでなく、今後は家族もテーマに据えていくつもりだ。<文と写真・鶴谷真>
−−「今週の本棚・本と人:『殺人出産』 著者・村田沙耶香さん」、『毎日新聞』2014年07月20日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20140720ddm015070034000c.html