覚え書:「今週の本棚・新刊:『バニヤンの木陰で』=ヴァデイ・ラトナー著」、『毎日新聞』2014年08月17日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『バニヤンの木陰で』=ヴァデイ・ラトナー著
毎日新聞 2014年08月17日 東京朝刊

 (河出書房新社・2808円)

 少女時代、カンボジアの旧ポル・ポト派による大虐殺(1975−79年)を生き延びた著者の自伝的小説。7歳のラーミの目を通して、農村への強制移住、虐殺、飢え、強制労働といった人間が生み出す極限の狂気と理不尽を伝える。

 著者は1970年、王室の家系に生まれた。旧体制の「上流階級」として「革命」の敵となるが、身分を隠して移住生活を送り、次々に親族を失いながら辛うじて助かった。

 破壊と殺りくが吹き荒れる中で、両親の愛情とカンボジアの大地がラーミの心身を包み込む。神話的逸話をちりばめて、色彩豊かな自然の描写が美しい。全てを奪われ、国民の4人に1人が殺されるという過酷を描きながらも、生きることをあきらめない希望の物語に昇華させている。

 詩人でもあった父親は娘に、<言葉は、本質的にはかないものを永久に残るものに変えることができる>と言い残す。旧ポル・ポト派の大虐殺を巡っては、先日、特別法廷が最高幹部2人に終身刑を言い渡した。あの時代に何が起きていたのか。生存者の「言葉」が編んだこの物語で、改めて知っておきたい。=市川恵里訳(部) 
    −−「今週の本棚・新刊:『バニヤンの木陰で』=ヴァデイ・ラトナー著」、『毎日新聞』2014年08月17日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140817ddm015070033000c.html





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