覚え書:「書評:どんぐりの森から 原発のない世界を求めて 武藤 類子 著」、『東京新聞』2014年08月17日(日)付。

2_3


        • -

 
どんぐりの森から 原発のない世界を求めて 武藤 類子 著

2014年8月17日
 
◆福島に暮らし考える
[評者]三上治=評論家
 福島原発事故で何が起こったのか。また現在、福島で何が進行しているのか。ひと通りの現状は誰しもが知っているのだろうが、そこから先はわからないのが実情ではないか。『ビッグコミックスピリッツ』掲載の「美味(おい)しんぼ」の描写をめぐる騒動はその一端を垣間見させた。こうした福島にあって原発事故で起こったこと、そこで生じたさまざまのことを、この発言集はよく伝えてくれる。
 著者はかつて特別支援学校の教師をしていたが、辞めて福島県三春町で雑木林を開墾し、小さな喫茶店を営んできた。この「どんぐりの森」と称される場の生活はチェルノブイリ事故後の脱原発運動を経て、それまでの生活の見直しから始められた。森の中で自然に寄り添い、小さな動物や草花に発見と感動を覚えるありし日の姿は魅惑的であり、ほっとさせてくれる。少し想像力を働かせれば脱原発や脱高度成長後の生き方を彷彿(ほうふつ)させるとも言えるが、それほど原発事故後の彼女らの日常は風雲急を告げ、放射線被曝(ひばく)、避難、風評被害と容赦なかった。
 情報なき事態に翻弄(ほんろう)される人々の姿、家族を引き裂く悲劇などが伝えられる。後に事故の告訴団を結成したが、随所で被曝の生み出す複雑な対立なども報告される。福島の昨日でなく、今日や明日のことが開示され、状況を正面から受け止めた女性たちの声が届けられる。
 (緑風出版・1836円)
 むとう・るいこ 福島原発告訴団団長。著書『福島からあなたへ』。
◆もう1冊 
 島亨著『フクシマ』(言叢社)。人と地域を根こそぎ汚染する原発事故による被曝をめぐり、さまざまな言説を検証。
    −−「書評:どんぐりの森から 原発のない世界を求めて 武藤 類子 著」、『東京新聞』2014年08月17日(日)付。

        • -



http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014081702000178.html





Resize1897


どんぐりの森から
どんぐりの森から
posted with amazlet at 14.08.22
武藤類子
緑風出版
売り上げランキング: 136,061