覚え書:「書評:江戸の人になってみる 岸本 葉子 著」、『東京新聞』2014年08月17日(日)付。


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江戸の人になってみる 岸本 葉子 著

2014年8月17日


◆想像力で味わう一年
[評者]高橋順子=詩人
 江戸時代二百六十年のイメージは、強固な封建社会であり、また洗練された江戸趣味の文化であり、一色というわけにはいかない。百万都市にして田園都市である江戸の人たちは、どんなふうに一年を、また一日を暮らしたのだろうか。
 エッセイストの著者は江戸を自分の内にとりこむために、ゆっくり江戸に近づいてゆく。第一章では、江戸時代、あるいはそれ以前からつづいている年中行事や祭りに出かけてゆく。川柳や俳句も付す。ここまでは類書も多いが、機知の味付けでもって、江戸と現代を交錯させているところが楽しい。寺子屋の博物館を訪ねた後、江戸時代の教育法にも筆がおよぶ。
 ユニークなのは第二章。題名どおり「江戸の人になってみる」。等身大の著者を江戸市中においてみると、長屋に一人住まいしている手習いのお師匠さんということになる。寝食から身づくろい、息抜きの仕方に至るまで、資料の博捜と想像力でもってなかなか読ませる。
 「布団はとっても高価なものなので、私は自分で買わないで損料屋から借りています」「蚊帳(かや)は夏の間そこから借りて、要らなくなったら戻しました」という暮らしぶりである。
 率直で歯切れのよい筆運びから、江戸の猥雑(わいざつ)さとともに、ふところの広さ、賢さがほの見えてくる。
 (晶文社・1620円)
 きしもと・ようこ 1961年生まれ。エッセイスト。著書『東京花散歩』など。
◆もう1冊 
 石川英輔著『大江戸しあわせ指南』(小学館101新書)。リサイクルに徹した江戸の暮らしを分かりやすく解説。 
    −−「書評:江戸の人になってみる 岸本 葉子 著」、『東京新聞』2014年08月17日(日)付。

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江戸の人になってみる
岸本 葉子
晶文社
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