覚え書:「今週の本棚・本と人:『悟浄出立』 著者・万城目学さん」、『毎日新聞』2014年08月24日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『悟浄出立』 著者・万城目学さん
毎日新聞 2014年08月24日 東京朝刊

 (新潮社・1404円)

 ◇生身の人間の内面に迫る−−万城目学(まきめ・まなぶ)さん

 特殊能力者が登場する『偉大なる、しゅららぼん』、ニートの忍者の物語『とっぴんぱらりの風太郎』など、奇想天外な作風で知られる作家が、初めてストレートに人物像を描き出した。『西遊記』の沙悟浄(さごじょう)、『三国志』の趙雲(ちょううん)ら中国の古典に材を取り、脇役たちを主人公に据えて彼らの内面に迫る短編集だ。読んでいて、ふと、万城目作品だということを忘れてしまいそうになる。

 最初に書いた表題作は、中島敦の『わが西遊記』に触発されたという。「悟浄出世」「悟浄歎異(たんに)」の2編からなる同作に初めて出合ったのは高校3年の時。「悟浄歎異」が現代国語のテストに出題された。すごく面白かったものの誰が書いたかわからず、中島の小説と判明したのが大学3年。ようやく全文を読んで以来、「悟浄が悟空と三蔵法師の二人について、どういう人物か考える内容の短編ですが、八戒については触れていない。続きがずっと読みたかった」。長い時間を経て、自らそれを書いたわけだ。

 「文章の格とか、実際に中島敦が書いたらこんなふうかなと雰囲気を継承して自然と書いてしまった」。ゆえに、いつもの不思議でとぼけたおかしみのある万城目ワールドとは一線を画す味わいになった。もともと芥川龍之介の「或日(あるひ)の大石内蔵助」や菊池寛の「忠直卿(ただなおきょう)行状記」など、一瞬を切り取り、登場人物の心の移り変わりを丁寧に書いていく歴史短編が好きなのだという。「そういう短編がもっとないかと探したけれど、意外と少ない。自分で書いてみてわかったんですが、これ、しんどくて量産できない。人間心理にそう数多くパターンがあるわけじゃないですからね」

 そうやって書かれた短編からは八戒の虚無(「悟浄出立」)や、男の身勝手さと女の意地(「虞(ぐ)姫寂静」)などが浮かび上がる。いつもはあまり書かない生身の人間の、生身の言動や感情、体感をつづる。「8年間エンターテインメント小説を書いてきて、ようやく許される一冊という気がします。面白かったバンドの音楽がやがて気難しくなっていくことがありますが、そうなってはいけないと思っています」<文・内藤麻里子/写真・藤井達也> 
    −−「今週の本棚・本と人:『悟浄出立』 著者・万城目学さん」、『毎日新聞』2014年08月24日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140824ddm015070032000c.html





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