覚え書:「今週の本棚・この3冊:東日本大震災から3年半=土方正志・選」、『毎日新聞』2014年09月07日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:東日本大震災から3年半=土方正志・選
毎日新聞 2014年09月07日 東京朝刊

 <1>断絶の都市センダイ−−ブラック国家・日本の縮図(今野晴貴編著/朝日新聞出版/1620円)

 <2>ドキュメント豪雨災害−−そのとき人は何を見るか(稲泉連著/岩波新書/842円)

 <3>復興するハイチ−−震災から、そして貧困から 医師たちの闘いの記録2010−11(ポール・ファーマー著/岩田健太郎訳/みすず書房/4644円)

 「あの日」から間もなく3年6カ月である。被災地の外ではもはや過去のニュースかもしれないが、東北被災地においては<災後>の日々がまだまだ続いている。今日もまた3月11日からひと繋(つな)がりの<いま>でしかない。瓦礫(がれき)が消え失(う)せた更地の荒野が広がり、避難生活者およそ25万人の東北である。

 復興住宅や巨大防潮堤の建設問題、高台移転もあればかさ上げ工事も続き、中間貯蔵施設に最終処分場はどうなってしまうのか。問題山積のままのこの事態をどう考えればいいのか……と、本を読み続けて最近の3冊だが、<1>は仙台で話題の一冊である。出張などで仙台に来られたみなさんがネオンまぶしい仙台駅前や国分町を歩いて「仙台、もうだいじょうぶじゃないですか」などと口にされると仙台市民としてはちょっと複雑な気持ちに襲われる。1万人が犠牲となった宮城県である。仙台駅からクルマで30分も行けば<壊滅>を伝えられた荒野である。3年を過ぎたにぎわいのカゲでなにが起きているか。それを追った本書を手に取っていただければ。ここに描かれているのは、災害に襲われて3年が過ぎたあなたの暮らす都市に起こるであろう明日の現実でもあるはずだから。

 <2>は2011年9月の台風12号水害のルポ。地震津波だけでなく、豪雨や豪雪であれ、自然災害の牙にかかる可能性は常にこの列島に暮らす私たちにはある。東京が豪雨災害に見舞われたとき、なにが起こるかにまで筆を及ばせた好著だが、同じ著者の東日本大震災ルポ『命をつないだ道 東北・国道45号線をゆく』(新潮社)、『復興の書店』(小学館)も、ぜひ。東日本大震災の<被災>経験の記録が、次なる災害への警鐘となってくれれば。

 <3>は東北の「あの日」を前にした10年1月12日、やはり大地震に見舞われたハイチ共和国で救援にあたった米国人医師たちの記録。地震という大自然の猛威に対しているのはこの列島に暮らす私たちだけではない、歴史や文化や環境や社会が違っても鳴動する大地に暮らす生き物としての私たちの基本は変わらない。

 <被災>の悲劇はなおも続く。今夏も広島豪雨をはじめ各地から悲報が届いた。中国雲南省地震も記憶に新しい。東北の被災地から、この列島で、この世界で<被災>を生きる人たちの生活再建を復旧を復興を無事を冥福を祈りながら、明日の被災者へ希望を繋ぐ。
    −−「今週の本棚・この3冊:東日本大震災から3年半=土方正志・選」、『毎日新聞』2014年09月07日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140907ddm015070013000c.html





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