覚え書:「書評:アベノミクスの終焉 服部 茂幸 著」、『東京新聞』2014年09月07日(日)付。

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アベノミクスの終焉 服部 茂幸 著

2014年9月7日
 
◆「三本の矢」の不毛を総括
[評者]根井雅弘=京都大教授
 アベノミクスは、ここにきて当初の期待感とは違って、それに対する批判的な論調が目立つようになった。著者は以前からアベノミクスに批判的な言論活動をしてきたが、本書は、タイトルに表れているように、それに引導を渡そうとする野心作だ。
 著者は、アベノミクスの三本の矢をひとつずつ総括していく。第一の異次元緩和(量的・質的金融緩和)については、一時政府や日銀によって、その効果(株価上昇と円安)が大々的に宣伝されてきた。だが、著者によれば、低迷する経済を実際に支えていたのは、政府支出、民間住宅投資、耐久財消費であり、しかも政府支出以外は消費税増税前の駆け込み需要によるところが大きい。つまり、日銀の異次元緩和とは関係がないという。
 第二の矢、つまり政府支出が確かに効果を発揮したことは著者も認める。しかし、財政主導型の経済回復が建設業に偏っていては、これから本当に重要な医療、福祉、教育の分野での政府支出が犠牲にされている。しかも、一部の論者が言うように、異次元緩和が財政ファイナンスを目的にしていると疑われるならば、中長期的には問題になるだろう。
 第三の矢は成長戦略なのだが、よくいわれる「トリクルダウン」(企業の利益増大が賃金上昇に結びつく)効果は生じていない。規制緩和や競争原理の重要性が指摘され始めて久しいが、例えば成果主義や目標管理制度の導入によって何が起こったかといえば、数値化できにくい創造性の必要な仕事を阻害し、かつての優良企業の低迷につながった。賃金引き下げのみに成功したのだ、と著者は手厳しい。
 アベノミクスの最終的評価をいま試みるのは早すぎる、という反論もあるだろう。しかし著者は、政府や日銀が自分の手柄のように宣伝するときは要注意だ、と本書全体を通じて主張している。図表も豊富で、現在の状況をわかりやすく解説した好著だ。
岩波新書・799円)
 はっとり・しげゆき 福井県立大教授。著書『新自由主義の帰結』など。
◆もう1冊
 伊東光晴著『アベノミクス批判』(岩波書店)。安倍政権の経済政策を検証し、第四の矢ともいえる憲法改正などの動きを批判。
    −−「書評:アベノミクスの終焉 服部 茂幸 著」、『東京新聞』2014年09月07日(日)付。

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