覚え書:「書評:世界が驚いた科学捜査事件簿 ナイジェル・マクレリー 著 沼尻由起子 訳」、『東京新聞』2014年9月14日(日)付。


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世界が驚いた科学捜査事件簿 ナイジェル・マクレリー 著 沼尻由起子 訳

2014年9月14日
 
◆人・行為の痕跡を追う
[評者]田中聡=作家
 本書は、犯罪捜査に使われるさまざまな科学的手法を、それが初めて利用された事件、成果をあげた事件などとともに紹介する。人体測定法や指紋法、血液学、弾道学、毒物学、地質学の応用、原形を留(とど)めない遺体からの復元やDNA鑑定など、みな実際の犯罪捜査のなかで確立されてきた手法だから、その歴史はおのずからドラマ性豊かな読み物となる。もっと知りたくなるような人物が−警官にも科学者にも犯罪者にも−数多く登場し、半ばミステリーの短篇集のように面白く読めた。
 たびたび引用される法科学者E・ロカールの「あらゆる接触には痕跡が残る」という言葉が印象深い。人間やその行為が痕跡=データによって同定されるという常識は、犯罪捜査の知識を通じて定着してきたのではないか、と気付かされるからだ。
 容疑者を夜の殺人現場に縛りつけて亡霊への恐怖によって自供させる「テクニック」がまだ使われていた一八八〇年代に、パリ警視庁のベルティヨンが提案した、人体の測定データを人物同定に利用するというアイデアは容易に採用されなかったという。人物評判が悪かったせいもあるようだが、今では科学的とも意識されないだろうほど常識的なその方法がなかなか受けいれられなかったことには、人間観の断層が現れていると思う。
河出書房新社・2160円)
 Nigel McCrery イギリスの脚本家・作家。元警察官でTVドラマも製作。
◆もう1冊 
 今井良著『警視庁科学捜査最前線』(新潮新書)。Nシステム、逆探知、データ解析など犯罪捜査の最前線を紹介。
    −−「書評:世界が驚いた科学捜査事件簿 ナイジェル・マクレリー 著 沼尻由起子 訳」、『東京新聞』2014年9月14日(日)付。

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世界が驚いた科学捜査事件簿
ナイジェル マクレリー
河出書房新社
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