覚え書:「【書く人】物事を立体的に見よう  『「知」の読書術』作家・元外務省主任分析官 佐藤 優まさるさん(54)」、『東京新聞』2014年9月14日(日)付。


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【書く人】

物事を立体的に見よう  『「知」の読書術』作家・元外務省主任分析官 佐藤 優まさるさん(54)

2014年9月14日

 私たちが生きているこの時代を、俯瞰(ふかん)して見る視座を与えてくれる「教養」。その教養を身に付けるには、どんな本をどう読めばよいのか。そんな実践的な読書術を教える本を、佐藤優さんが出した。
 今から百年前に起きた第一次世界大戦。その契機となったサラエボ事件をもたらした「ナショナリズム民族主義)」や、二度の大戦の背景にあった「帝国主義」は今、世界を再び覆いつつある。佐藤さんはそれらを「前世紀の遺物がよみがえったのではなく終止符が打たれていなかったのだ」とみる。そして、こうした二十世紀の課題を解決できずに持ち越している現代を「未完の二十世紀」と呼ぶ。
 本書は、そんな「未完の二十世紀」の様相を、「二つの世界大戦は休止期を挟んだひと続きの戦争」とみる歴史学者ホブズボームの『20世紀の歴史』や、レーニンの『帝国主義』などを紹介しながら浮き彫りにしていく。佐藤さんが書いたそれらの本の解説を読むと、ウクライナをめぐるロシアと欧米の対立などの国際的なニュースが、歴史的過程や現代の世界情勢とのかかわりの中で見えてくる。
 「そう、通時性(歴史的変化を追うこと)と共時性(同じ時代の変化や差異を見ること)を持つということですよね。見る視座が変われば見方は変わりますからね。この本は三次元で、立体的に物事が見られるようになる構成にしてるんです」
 「今、ナショナリズムが中国でも韓国でも、日本でも爆発している。民族的なものが強まって新しい宗教になっていくことが、東アジアなどで起きている」と佐藤さん。「逆に中東ではイラク人、シリア人というナショナリズムは溶解過程に入ってなくなりつつある。その結果出てくるのが原理主義です。また資本主義の上層部でも民族はなくなりつつありますよね。多国籍資本にどこの国に所属しているかの意識はない。超富裕層は『ロシア人』や『イギリス人』ではなく『金持ち』っていうカテゴリーです」
 これらの事象が今後、どんな展開をたどるかはわからない。だがその行方は日本の経済や政治を左右し個人の仕事や生活に影響する。教養は、現代を生き抜くための知恵でもある。「だからこそ今、必要なんです」
 集英社・一〇八〇円。 (岩岡千景)
    −−「【書く人】物事を立体的に見よう  『「知」の読書術』作家・元外務省主任分析官 佐藤 優まさるさん(54)」、『東京新聞』2014年9月14日(日)付。

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