覚え書:「書評:集団的自衛権と安全保障 豊下 楢彦・古関 彰一 著」、『東京新聞』2014年09月21日(日)付。

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集団的自衛権と安全保障 豊下 楢彦・古関 彰一 著

2014年9月21日

解釈改憲の論理矛盾抉る
[評者]山本武彦=早稲田大名誉教授 
 集団的自衛権の行使容認に向けた安倍政権の動きは、日本の「戦後」を支えてきた不戦の体制に風穴を開けるかのような勢いを示す。本書では、このような趨勢(すうせい)に危機感を抱く多くの国民の意識を代弁し、安倍政権の進めようとする更なる解釈改憲の試みに含まれた論理矛盾の多くが抉(えぐ)り出される。
 本書は、第二次安倍内閣が一枚看板に掲げる「積極的平和主義」を「積極的軍事主義」と読み替え、今年四月の武器輸出三原則を防衛装備移転三原則に変更する決定をその例としてあげ、日本が「死の商人」に姿形を変え、やがてはアジアにおける軍拡のシーソーゲームに加担しかねないことに警鐘を鳴らす。さらに、兵器輸出の可能性を切り開いた武器輸出三原則の撤廃が国際公共財として捉えられるべき日本国憲法の諸原則を後景に退かせ、やがては無人潜水機やロボット兵器の開発や国際共同開発に道を開くことの危険性を明かす。そして、いわゆる自衛権と警察権の狭間(はざま)にあるグレーゾーンの意図するところを自衛権の拡大と軍事化を目指すものと捉え、戦争のハイブリッド化が進む現状からそれが導き出されたことを示唆する。
 わが国にとって「戦後」とは、むろん太平洋戦争終結後のことを指す。それから六十九年もの間、「戦後」を他国との戦争を経験することなく歩んできた。他のどの国にもこのような長期間の「戦後」史を刻んだ国はない。この歴史を作る礎となったのが、戦後日本の保守政界が憲法恒久平和主義を念頭に置いて打ち出した軽武装路線であった。この不動の路線を敷いた吉田茂の名をとって「吉田ドクトリン」と呼ぶ。歴代の自民党政権は、これに真っ向から挑戦することはなかった。
 これを支えてきた自民党内の保守リベラル層は今や総退場し、吉田ドクトリンは風前の灯だ。「戦後」史の遺産を後の世代に伝えるためにも、本書の投げかけた多くの問いに、安倍政権は真摯(しんし)に答えるべきであろう。
 (岩波新書・886円)
とよした・ならひこ 国際政治学者。
こせき・しょういち 獨協大名誉教授。
◆もう1冊 
 浦田一郎ほか著『ハンドブック 集団的自衛権』(岩波ブックレット)。集団的自衛権をめぐる議論の歴史と行使容認の意味を解説。
    −−「書評:集団的自衛権と安全保障 豊下 楢彦・古関 彰一 著」、『東京新聞』2014年09月21日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014092102000205.html






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