覚え書:「【書く人】人のためにできること 『エヴリシング・フロウズ』  作家 津村 記久子さん(36)」、『東京新聞』2014年09月21日(日)付。

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【書く人】

人のためにできること 『エヴリシング・フロウズ』  作家 津村 記久子さん(36)

2014年9月21日


 理不尽な暴力を目の当たりにした時、力の弱い素朴な人間は、一人で何ができるだろう。中学三年生の日常を細やかに描いた物語を通し、そんな問いを投げかける。「自分の小説の中で、一番出来がいいように思う」という会心の長篇小説だ。
 主人公は小柄で地味な男子生徒ヒロシ。仲の良いクラスメートのヤザワが突然、いじめのターゲットになる。日々嫌がらせがエスカレートする中、なんとか助け出そうとヒロシが動く。「誰かに何かあった時、自分も人のためにこれくらいのことは、できたらうれしい。そういうレベルのことを書いたつもり。ヒロシ本人に、これはできるか?できるよな? って聞きながら進めた感じです」
 ヒロシを含め、中心的な人物は皆、友人や親に過度に依存しない。大人びたところのある中学生たちだ。「年相応に群れている子のことは、あんまり私が書く必要はないと思う。孤立している子は、自分のその状態を気にしていたりもするでしょう。私もそちらだったので、そういう子のほうが面白い」
 この作品で、初めて挑戦したことの一つが「かっこいい男の子を書くこと」。いじめの標的になったヤザワがそうだ。嫉妬が元で、悪意ある噂(うわさ)を流されても、無口でわが道を行く。器の大きさを感じさせる魅力的な存在に仕上がった。「これまでは、かっこいい男の子が一人も出てこなかったんです。女の子ならいると思いますけど。でも書けば書くほど普通の子になったなあ、と」
 「ポトスライムの舟」で芥川賞を受けてから五年。年二冊ほどのペースで作品を発表し続けている。執筆の仕事が増え、この作品を書いている途中で、十年半勤めた会社を退職した。「どうにも回らなくて。これは今しか書けないものやと思って、小説に集中することにしました。できれば辞めたくなかった。会社員やってたほうが気分的に健康だったなと思います」
 出身の大阪で執筆を続けるが「引っ越してみたい」とも。「東京じゃなくて、地方に行きたいですね。旅行に行くたびに、ここに住めるかなぁとか考えるんです。雨の多いところのほうが小説が進むような気がするので、三重の尾鷲市なんかいいかも。時々物件を眺めたりしています」
 文芸春秋・一七二八円。
  (中村陽子)
    −−「【書く人】人のためにできること 『エヴリシング・フロウズ』  作家 津村 記久子さん(36)」、『東京新聞』2014年09月21日(日)付。

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