覚え書:「書評:満蒙 日露中の「最前線」 麻田 雅文 著」、『東京新聞』2014年09月28日(日)付。

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満蒙 日露中の「最前線」 麻田 雅文 著

2014年9月28日


◆鉄道の権益めぐる三国志
[評者]佐江衆一=作家
 本書のタイトル「満蒙(まんもう)」という言葉を、一九八〇年生まれの著者と同世代か戦後生まれの読者は、どのようにイメージするのだろう。戦前生まれの私は「満蒙は日本の生命線」という言葉をよく耳にしたし、満蒙開拓団や満蒙青少年義友軍で旧満州中国東北部)に渡った人々を知っており、その取材で、シベリア鉄道に接続して中国の満州里から綏芬河(すいふんが)、そしてロシアのウラジオストクへ東西にのびる中東鉄道のハルビン・牡丹江間を乗車した。
 本書は、日清・日露戦争から第二次大戦終戦までの、日本も植民地拡張時代の半世紀、満蒙を走る中東鉄道の権益の歴史をロシア、中国、日本の政治家の側から特にロシアの資料を駆使して記述しており、私には多くの発見があった。第一章は小村寿太郎とウィッテ。ウィッテは私にはなじみの薄い人物だが、帝政ロシアの蔵相、後に首相。彼はバンクーバーから太平洋航路で不凍港ウラジオストク、そして中東鉄道とシベリア鉄道でヨーロッパを結ぶ物流を構想していたというから驚く。
 第二章以降、伊藤博文ハルビン駅で暗殺した安重根満州事変をおこした関東軍参謀石原莞爾も登場するが、孫文張作霖、張学良、トロツキーとロシア人のさらなる登場で、中東鉄道の利権をめぐる二十世紀の満蒙三国志の感がある。そして、昭和天皇、〓介石とスターリンの終章で、今日に直結する歴史が展開する。中でもスターリンは、大戦終結の夏に「日本は殲滅(せんめつ)されたあと二〇年かそれくらいで」「復活するのだろう」と予想し、四十年先の極東の安全保障を考えていたというから、これまた驚く。
 『昭和天皇実録』が完成し、本書に新事実が加わるかもしれないが、歴史認識が近隣諸国でさわがしい昨今、若い読者、とくに学生諸君に本書をすすめたい。間もなく戦後七十年だが、満蒙の悲劇を知る私には、ソ連軍の進攻で我が子を自決させつつ中東鉄道の鉄路を逃れた同胞の姿が目に浮かぶ。
 (講談社選書メチエ・1998円)
 あさだ・まさふみ 1980年生まれ。近現代史研究家、専門はロシアと東アジア。
◆もう1冊
 井出孫六著『中国残留邦人』(岩波新書)。国策によって旧満州に送り出され、敗戦によって置き去りにされた人々のその後をたどる。
※〓は草かんむり下に將
    −−「書評:満蒙 日露中の「最前線」 麻田 雅文 著」、『東京新聞』2014年09月28日(日)付。

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