覚え書:「書評:縄文人からの伝言 岡村 道雄 著」、『東京新聞』2014年09月28日(日)付。

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縄文人からの伝言 岡村 道雄 著

2014年9月28日


◆生き方、精神を掘り下げる
[評者]辻誠一郎=東京大教授
 縄文人の遺言でも聞いたかの感を与える書名だ。だが中身は縄文人の生活文化を検証するように語られ、環境問題など多くの問題を抱える現代社会を見直し改めるには、そうした人々の生活文化に学ぶべきだと論じている。
 生活文化とは土器や石器といった造作物やその技術ではなく、生活の仕方あるいは生きざまだという。その探索のために、物質文化と背中合わせにある精神文化に思いっきり踏み込んでいる。さらに、これまで触れられることが稀(まれ)だった女性の生きざまも深く掘り下げられる。縄文人なんて大昔のその日暮らしの原始的な生活を送っていた人々と思い込んでいる読者は多いかもしれない。この本を読めば、その歪(ゆが)められてきた常識はみごとに崩れ、急激に近代化を遂げた昭和三十年代までは、縄文人の生活文化が生き続けてきたことを思い知らされるはずである。
 間違いなく著者は考古学者だが、にもかかわらずこれまでの考古学の枠にはおさまらない世界を開拓してきた。それは環境とのかかわり方、植物や動物とのかかわり方、地形や地質とのかかわり方、そういった生活文化が余すことなく語られることで、読者はその世界の大きさを知ることができる。それは生態学者・植物学者・地質学者・民俗学者など、考古学をとりまく分野の研究者との日常の絶え間ない議論の蓄積があったからなのだろう。
 各章の見出しが本書の世界を見事に示している。「数百年から千年以上も続いた縄文集落」「海・山の幸と自然物の利用」「定住を支えた手作り生産と物の流通」「縄文人の心と祈り」「墓・埋葬とゴミ捨て場・『送り場』」といった具合だ。そして最終章「縄文的生活文化の終わり」で現代社会の問題点を焙(あぶ)りだし、今後の方向性が示される。
 「はじめに」と「おわりに」をまず読んで欲しい。「旅する杉並の縄文人」と自称する著者の、本書への意気込みを感じ取ることができる。考古学書のみならず哲学書としても薦めたい。
 (集英社新書・778円)
 おかむら・みちお 1948年生まれ。縄文研究者。著書『縄文の生活誌』など。
◆もう1冊
 佐原真・小林達雄著『世界史のなかの縄文』(新書館)。列島に一万年続いた独特な縄文文化を、世界史のなかに位置付けた対話集。
    −−「書評:縄文人からの伝言 岡村 道雄 著」、『東京新聞』2014年09月28日(日)付。

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