書評:岩下明裕編『領土という病 国境ナショナリズムへの処方箋』北海道大学出版会、2014年。

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岩下明裕編『領土という病 国境ナショナリズムへの処方箋』北海道大学出版会、読了。領土問題は全て政治的に「構築(construct)」された産物であり、ひとは常に「領土の罠」に穽っている。本書はボーダースタディーズの立場から「領土という病」の治療を目的に編まれた挑戦的な試みだ。

領土ほど自明のように映りながらその実空虚なものは他にはない。「領土が大事」「領土は国家の礎」という言辞に疑問を抱かないことが「領土という病」の徴候だ。本書はシンポジウムや数々の論考・調査から「領土」や「主権」という言葉の呪いを解きほぐす。

領土主権は常に権力の源泉だが、その現実は常に流動的である。「我が固有の」という絶対性など自明ではない。主権は領土から分離しても実効性をもちうるし、主権そのものも分割しうる。先ずは、領土の構築性というイデオロギーを自覚することがスタートになろう。

本書は国境地帯・領土問題係争地帯での現実を掬い上げたボーダー・ジャーナリズムの報告も多数収録。竹島が韓国領となった場合、漁業利益は日本に有利になるし、現実に竹島近海「のみ」に依存する就労者自体が稀少とは驚いた。

日本の領土問題といえば、常に北方領土竹島尖閣の3つが指摘されるが、沖縄こそ「日本最大の領土問題」とも指摘する。主権の分割した状態は未だ継続中。本書はアカデミズムとジャーナリズムの驚くべき協働だ。虚偽の常識をリセットしてくれる好著。

ああ、そうそう、編者の岩下さんは、中公新書で『北方領土問題 4でも0でも、2でもなく』を2005年に刊行した折り、産経新聞社から「平成の国賊」と罵られたそうな。話はずれますが、所謂「メディア」が「活字」で「平成の国賊」などとレッテル貼りするとはこれいかに、ですわな。





岩下明裕編著『領土という病 ― 国境ナショナリズムへの処方箋』刊行される | 境界研究ユニット(UBRJ) - 北海道大学スラブ研究センター


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領土という病
領土という病
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