覚え書:「今週の本棚・本と人:『ドナルド・キーン わたしの日本語修行』 著者、ドナルド・キーンさん」、『毎日新聞』2014年11月02日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『ドナルド・キーン わたしの日本語修行』 著者、ドナルド・キーンさん
毎日新聞 2014年11月02日 東京朝刊

 (白水社・1944円)

 ◇「ナガヌマ・リーダー」との再会

 秋バラが香る東京・旧古河庭園そばのマンションに暮らす日本文学の泰斗(たいと)は6月、92歳になった。2年前に日本国籍を取得し、静かに余生を送る日々かと思いきや、今年は、著作集『自叙伝 決定版』(新潮社)をはじめ、対談本など4冊を刊行。さらに石川啄木の評伝執筆などで忙しく、「楽隠居」するのは当分先のようである。本書はそのうちの一冊。米ニューヨーク生まれの著者がどのようにして日本語に出合い、日本文学の研究者・翻訳者として活躍するに至ったかを、共著者で日本語教育学を専門とする河路由佳(かわじゆか)・東京外国語大教授のインタビューでまとめたものだ。

 2年飛び級で入学したコロンビア大時代に、アーサー・ウエーリによる英訳『源氏物語』に夢中になり、やがて海軍日本語学校で本格的に学ぶ−−。こうした経緯はこれまでの著作で知られるところだが、本書の白眉(はくび)は、著者が海軍で使った「ナガヌマ・リーダー」と呼ばれる『標準日本語讀本(とくほん)』(長沼直兄(なおえ)編)の復刻本に、70年ぶりに再会する場面である。

 「昨日のことはあんまり覚えていないけれど、あの時代のことはよく覚えています(笑い)。当時の教科書が残っていて驚きました。『これ は 赤い 本 です か』。絶対に忘れません」。日系米国人の教官から、いきなり漢字交じりの旧仮名遣いの読み書きをたたき込まれた。

 「当時は、外国人が日本語を学ぶのは不可能というのが常識でした。1クラス6人で、大変ぜいたくな環境でした」。わずか11カ月で卒業するまでに文語体をはじめ、漢字も楷書のみならず、行書、草書まで覚えた。

 「戦争で手書きの日本語を読む必要がありましたが、一生懸命学んだのは愛国心からではありませんでした。私は日本語が好きでした。熱心に教えてくださった先生方も好きでした」

 戦後、コロンビア大に戻った著者は、「第二のアーサー・ウエーリになろう」という大志を抱き、日本文学研究に一生をささげることを決意する。

 美しい日本語にこだわり続ける、その原点がよく分かる一冊である。<文・中澤雄大/写真・宮間俊樹>
    −−「今週の本棚・本と人:『ドナルド・キーン わたしの日本語修行』 著者、ドナルド・キーンさん」、『毎日新聞』2014年11月02日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20141102ddm015070036000c.html






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