覚え書:「書評:挽歌集 建築があった時代へ 磯崎 新 著」、『東京新聞』2014年11月02日(日)付。

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挽歌集 建築があった時代へ 磯崎 新 著  

2014年11月2日

◆刺激的な同時代への哀悼
[評者]五十嵐太郎=東北大教授
 本書は建築家の磯崎新が、一九七四年から二○一四年にかけて執筆した追悼文をまとめたものである。現在、ワタリウム美術館において、彼の建築以外のプロジェクトを軸とした「12×5=60」展が開催されているように、磯崎は驚くほど多様な異文化のジャンルと交流してきた。おそらく、今後もこれほどの建築家は登場しないだろうし、世界的に見ても稀有(けう)である。
 本書で磯崎の想(おも)いがつづられる建築以外の人物は、マン・レイ瀧口修造ナム・ジュン・パイク岡本太郎倉俣史朗ルイジ・ノーノイサム・ノグチ辻邦生勅使河原宏ジャック・デリダスーザン・ソンタグ武満徹荒川修作多田富雄大野一雄吉本隆明吉田秀和東野芳明東松照明堤清二などであり、美術、音楽、舞踏、写真、デザイン、文学、批評、哲学など多岐にわたる。興味深いのは、いずれも磯崎と生前の彼らとの交流のちょっとしたエピソードが回想されており、それが的確に人柄を伝えると同時に、それぞれの論の核になっていることだ。友人にしか書けない追悼集でありながら、二十世紀後半の文化史としても読めるだろう。
 建築家については、ルイス・カーンに始まり、磯崎が「建築」の化身とみなした師匠の丹下健三への弔辞などを収録している。本書の第一部「友へ」は前述した通りだが、第二部「建築へ」は盟友のハンス・ホラインらに対する追悼の論考であり、第三部「二十世紀へ」は過ぎ去った二十世紀を振り返る。すなわち、多くの友を見送った磯崎は、本書の後半において、かつて熱く議論した「建築」の概念そのものの終焉(しゅうえん)を語り、刺激的な同時代を生きた二十世紀への哀悼の意を表している。世界貿易センタービルがまだ存在し、ネットが地球を覆う以前の世界だ。
 彼は今後、虚体としての「アーキテクチュア」が作動することを予言したが、新しい時代を作り、その行方を見守るのは次世代の仕事になるだろう。
 (白水社・3024円)
 いそざき・あらた 1931年生まれ。建築家。著書『空間へ』『建築の解体』。
◆もう1冊 
 嵐山光三郎著『追悼の達人』(中公文庫)。明治から昭和の文人四十九人の追悼文や弔辞から、生前の毀誉褒貶(きよほうへん)や生身の姿を語る。
    −−「書評:挽歌集 建築があった時代へ 磯崎 新 著」、『東京新聞』2014年11月02日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014110202000164.html






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