覚え書:「記者の目:性的マイノリティーと学校=藤沢美由紀(東京社会部)」、『毎日新聞』2014年10月31日(金)付。

4

        • -

記者の目:性的マイノリティーと学校=藤沢美由紀(東京社会部)
毎日新聞 2014年10月31日 東京朝刊

 ◇教員の理解が急務
 性同一性障害や同性愛など性的マイノリティー(LGBT)の子供が、学校でさまざまな困難に直面している。制服やトイレ、体育の授業など男女別に分けられる場面が多い中、教員ら周囲の無理解で必要な対応がなされないケースがあるからだ。憲法はすべての子供に等しく教育を受ける権利を保障している。どの子供が出会う教員も正しい知識を身につけて適切な対応ができるよう、文部科学省や各教育委員会にはLGBTに特化した教員研修など一歩踏み込んだ対応を求めたい。

 9月から10月にかけ、教育面でLGBTと学校をテーマとした企画「ありのままで」を3回連載した。LGBTとはレズビアン(女性同性愛者)▽ゲイ(男性同性愛者)▽バイセクシュアル(両性愛者)▽トランスジェンダー(体と心の性が一致しない人)の頭文字で構成され、性のあり方が多数と異なる人を表す。約20人に1人はLGBTとされることから(電通総研・2012年調査)、各教室に1人はいると考えられる。本来はすべての教員にとって身近な存在のはずだ。だが、取材で痛感したのは、教員にLGBTについての知識や理解が乏しいために、当事者の子供たちに生きづらさを感じさせている現実だった。

 ◇不登校を招く、無知による対応

 体は男性だが自らを女性と感じる生徒は中学時代、水着になることが苦痛で水泳の授業に出られなかった。同級生にいじめられ、担任に相談したが、「お前が校則を守らないからだ」と言われた。体は女性だが男性だと自認する別の生徒は、制服のスカートがはけず不登校になった。担任に「スカートの下にジャージーをはけば通える」と提案したが、「正当な理由ではない」と一蹴されたという。

 LGBTに理解があり、制服もない高校に進学した2人は、学校生活について生き生きとした笑顔で話してくれた。学校側の理解の有無で教育の機会が左右されることは本来許されないはずだ。文科省は10年、性同一性障害の児童生徒の教育相談を徹底し、本人の心情に十分配慮した対応をするよう都道府県教委などに通知した。しかしそもそも、教員に知識や理解がなければ、十分な配慮はできない。

 ◇研修や冊子配布、効力ある対応を

 宝塚大看護学部の日高庸晴教授が11−13年に保育園から高校までの教員ら約6000人を対象に実施した調査によると、出身養成機関でLGBTを学んだ経験がある人は性同一性障害が8・1%、同性愛は7・5%と、1割にも満たなかった。同性愛が精神的な病気ではないという、正しい理解をもっていない教員は約3割に上った。社会全体の理解が不十分だが、せめて教員には正しい理解をしてほしい。ただ、個々の教員の意識や努力に頼るだけでは解決は望めない。各教委には教員向けの研修に組み込んだり、当事者団体がまとめた教員向け冊子を配布したりするような実効性ある対応を求めたい。

 10年の通知は対象を「性同一性障害の児童生徒」に限定したが、他のLGBTの子供にも当然配慮が必要だ。同性が好きな子供は、同性愛者をバカにして笑いを取ろうとする教員の姿に傷つき、異性愛を前提とした授業に苦しむ。性のあり方は多様で、必要とする配慮も子供により異なる。教員にはまず、配慮が必要な子供が目の前にいるという想像力を働かせてほしい。

 連載では、LGBTの当事者である教員たちの体験も取り上げた。体の性とは異なる性で働くことを望んだが、勤務先に断られた人がいた。教育実習の受け入れ先がないことを恐れ、自認する性と異なる性に合わせた振る舞いをするしかなかった人もいた。教員としての能力とは無関係なのに、これでは教員になること自体を諦める当事者も多いだろう。働く場に関わらず、必要な配慮は受けられるべきだ。子供たちにとっては、多様な教員に出会うことに大きな意義があると私は思う。

 こんな意見もある。「社会に出たら『わがまま』は通用しないのだから、子供自身のためにも特別扱いはすべきでない」。社会に出てもLGBTを取り巻く環境が厳しいのは事実だが、それは社会の側に知識と理解が足りないせいだ。当事者の子供が社会で生き抜けるように願うのであれば、一人一人のありのままを認め、自信を持たせる方がよほど有効ではないだろうか。

 当事者のある教員の言葉に私は共感する。「LGBTにとって過ごしやすい環境は、みんなにとって過ごしやすいはずだ」。子供の話に耳を傾け、寄り添ってくれる先生は、誰にとっても良い先生だと思う。
    −−「記者の目:性的マイノリティーと学校=藤沢美由紀(東京社会部)」、『毎日新聞』2014年10月31日(金)付。

        • -





http://mainichi.jp/shimen/news/20141031ddm005070002000c.html





42

Resize0022