覚え書:「今週の本棚・本と人:『野良猫姫』 著者、ファン・インスクさん」、『毎日新聞』2014年11月23日(日)付。
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今週の本棚・本と人:『野良猫姫』 著者、ファン・インスクさん
毎日新聞 2014年11月23日 東京朝刊
(生田美保訳・クオン・2700円)
◇細部の描写にあふれる愛情
たくさんの猫が登場する「猫小説」。野良猫たちとの密な関係を描きながら、人間世界の厳しさを浮かび上がらせている。韓国では「猫詩人」として知られる著者の、初めての小説だ。
「フィクションを作る自分に抵抗がありました。今回、人物は創造しましたが、実際にあったことを、私小説に近い形で書いています」
太り気味で人なつこい「ベティ」、美しく気品あるアビシニアン「アビ」−−。猫の生活の細部の描写に、実体験に基づいた著者の愛情があふれる。20歳の女性ファヨルはソウルの街角で、インターネットを通して知り合った仲間と野良猫の世話をしている。大学に進学せずコンビニでアルバイトの毎日を送る。両親は行方不明になり、一人で暮らしていた。
「彼女は社会に属しているところもなく、裕福でもない。けれど、頑張って負けないで生きているところは、野良猫に近い。ファヨルが猫をケアするように、サイトで出会った人々がファヨルをケアしている。そんな構造の小説になりました」
ファヨルには一つの夢があった。野良猫や仲間のなかで育まれる、「生」のきらめきがみずみずしい。詩人ののびやかで軽やかな文体が、作品のトーンを明るく解放させている。
1958年ソウル生まれ。84年、詩「私は猫に生まれたい」で詩壇デビュー。<次に生まれるなら私は猫に生まれたい><いばらの藪(やぶ)を駆けまわり/広い野原に出てゆこう>とつづった。猫にこだわる理由を「猫には、私と友人の生活が象徴されているから」と語る。これまで6冊の詩集と2冊のエッセー集を刊行。「意識しないで書くのが詩、意識して書くのが小説。魂の状態が違います」とその差を説明した。
本作は韓国の大手出版社の会員制サイトに2010年11月から94回連載された。韓国ではネット上の小説連載が盛んで、アップロード直後から読者が競ってコメントを書き込むという。「連載中もコメントは読んでいました。影響は受けていませんが、悲しいシーンで一緒に泣いてくれ、友好的なコメントばかりだった。連載はとても楽しかった」と振り返った。<文と写真・棚部秀行>
−−「今週の本棚・本と人:『野良猫姫』 著者、ファン・インスクさん」、『毎日新聞』2014年11月23日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20141123ddm015070029000c.html
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