覚え書:「書評:粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う 中垣 俊之 著」、『東京新聞』2014年11月23日(日)付。

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粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う 中垣 俊之 著 

2014年11月23日

◆高い知力人にヒント
[評者]小林照幸=作家
 落ち葉の下などにいるホコリカビ類の粘菌。単細胞生物だが、アメーバ運動で動き回る。著者は粘菌を研究して四半世紀。脳も神経もない粘菌に賢さを見出し、人を笑わせるも考えさせる研究に与えられるイグ・ノーベル賞を二回受賞した。広げた迷路に餌場となる出口を二つ作ると、粘菌は管状に伸張し、最短経路で二つの餌場を繋(つな)ぐ。これは「ネイチャー」誌に発表された。
 さらに関東、北海道の地図の主要都市に餌を置き、駅の目安として粘菌を這(は)わすと、現行のJR路線図と大差のない管状の繋がりも示す。鉄道の敷設は多くの人間の労力と時間の結集だが、粘菌のネットワークは各細胞の自律的な行動がコンピューターのように機能する成果だ、と考える著者は、「鉄道網は粘菌並みに良くできている」と、揶揄(やゆ)の意での単細胞の使い方にも一石を投じた。粘菌の「ためらい」行動の項も読みどころだ。濃度によっては命取りとなる薬品を盤上に置くと、粘菌は数時間立ち止まった後、濃度を判断して引き返す、乗り越える、またはその二つに分かれるという。
 著者は進化上、人間の意思決定の原形と「心のしくみ」を粘菌に見出した。ヒトは進化の産物で植物とも無縁ではなく、粘菌の知力が人間社会の秩序を考える上で参考になる、と語り、読者は落ち葉の下の粘菌に関心を抱くに至るのだ。
(文春新書・788円)
 なかがき・としゆき 北海道大教授。著書『粘菌−その驚くべき知性』など。
◆もう1冊 
 神坂次郎著『縛られた巨人−南方熊楠の生涯』(新潮文庫)。粘菌研究に打ち込んだ伝説的な在野学者の素顔に迫る。
    −−「書評:粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う 中垣 俊之 著」、『東京新聞』2014年11月23日(日)付。

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