覚え書:「平田オリザ(劇作家・演出家)さんと読む『どうぶつ会議』」、『朝日新聞』2014年11月23日(日)付。
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平田オリザ(劇作家・演出家)さんと読む『どうぶつ会議』
[掲載]2014年11月23日
(写真キャプション)平田オリザさん(劇作家・演出家) 62年生まれ。青年団主宰。12月に「サンタクロース会議」を西日本で公演。小説「幕が上がる」が来春映画化。=谷本結利撮影
■演劇に影響を与えた原点
『どうぶつ会議』 [著]エーリヒ・ケストナー (光吉夏弥訳、岩波書店・972円)
初めて読んだのは幼稚園の頃。当時はベトナム戦争のさなかで反戦の機運が高く、近くの大学では学園紛争が起きていた。そんな社会でした。動物がたくさん登場して絵はにぎやかだけれど、漢字も多くて結構難しい。ませた幼稚園児だったんでしょう。以来、節目節目に読み返している一冊です。
第2次世界大戦後まもなく発表された絵本なのに、今でも通用する話。戦争が終わって数年後、人間たちは国際会議を重ねますが、一向に成果が出ない。動物たちは怒って、子どもたちを守るために動物会議を開こうと決心します。
小さい頃は動物たちが集まるまでの描写がすごく楽しくて、世界中を旅したいと思うようになりました。最初に世界と出会った本ともいえるかもしれませんね。
さまざまな価値観の動物たちがみな「戦争はいけないに決まっている」と思っているのに、人間だけは共有できない。時代が違うので一概には言えませんが、同じ過ちを繰り返してしまう人間の愚かさが非常によく伝わってきます。
僕は人が集まって「ああでもないこうでもない」と言っていることに関心があるんですが、原点にはこの本があります。演劇にも影響していて「会議シリーズ」という戯曲を書いている。赤穂浪士たちが討ち入りするか延々と話す「忠臣蔵」や、サンタの存在などを議題に大人と子供が繰り広げる「サンタクロース会議」。決められない会議は劇作家としてとても興味深い。そんな会議に実際に参加するのはいやですけどね。
アイデアを出し合ってより良いものを作る過程で、お互いの考えが変わる。異なる価値観の人間がどうにかしてうまくやっていくのが本当の意味での会議です。でも、日本では価値観をひとつにしがちで合意形成に至らない。訓練が必要です。僕は演劇教育を通じて働きかけているつもりですが、なかなか難しい。理想論に過ぎるかもしれませんが、とても大事なことだと思います。
(構成・竹内誠人)
−−「平田オリザ(劇作家・演出家)さんと読む『どうぶつ会議』」、『朝日新聞』2014年11月23日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2014112300016.html