覚え書:「文芸:この1年 『お気楽ニッポン』にくさび=鶴谷真(学芸部)」、『毎日新聞』2014年12月15日(月)付夕刊。
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文芸:この1年 「お気楽ニッポン」にくさび=鶴谷真(学芸部)
毎日新聞 2014年12月15日 東京夕刊
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なぜ私がここにいるかの謎を考えたい。それも楽しみながら。佐伯作品は著者自身を思わせる主人公が1980年代の北関東の一角で働き、家族を養う様を描く。ただそれだけなのに、毛穴の奥をじっと見つめるかのような生への執念と、目線の低さが心を揺さぶる。どんな作り物も及ばないと思った。
松波作品は、脳内の王国の王を自任するふわふわしたフリーター男が、かくも好戦的で排外的、そして原発事故をなかったことにするかのような、世も末の現代日本を撃つ。ユーモアもあって、余韻が強烈だった。
手練の技は村田作品。中年の主婦と武骨な屋根職人の究極のランデブーこそ、小説の最大の楽しみである空想の旅。まったく甘さのない文体と展開だけに、余計に心が弾んだ。三崎作品は、かつて栄えた鉄道城下町の奇妙な町おこし。どうしても戦争のにおいが漂っていて、読了後は世界がゆがんで見えた。
限りなく暗黒の物語なのに、最も速いスピードで読まされたのが吉村作品。ここまで直接的に書かなければ、原発も戦争すらもオーケーといった風潮のお気楽ニッポンに文学のくさびを打ち込めないのかしらん。
−−「文芸:この1年 『お気楽ニッポン』にくさび=鶴谷真(学芸部)」、『毎日新聞』2014年12月15日(月)付夕刊。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20141215dde018040042000c.html