覚え書:「書評:高野山 松長 有慶 著」、『東京新聞』2014年12月14日(日)付。

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高野山 松長 有慶 著

2014年12月14日
 
◆自然と共にある信仰
[評者]宇江敏勝=作家・林業
 高野山はわたしの住む和歌山県内なので訪れる機会は多い。お寺やお墓にお参りし、町中を散策する。摩尼山(まにさん)などまわりの原生林をめぐり、宿坊に泊まって早朝の勤行に参加したこともあった。
 この本を読んでいると、親しんできた高野山のたたずまいが鮮やかに浮かんでくる。と同時に自分の知らない陰影に富んだ豊かでふかい世界にひきこまれる。
 第一章「高野山を歩く」では、百十七もの寺院の位置と姿と、それぞれの宗教上の役割が解説される。第六章「高野山文化財」では、仏像、絵画、曼荼羅(まんだら)その他国宝や重文などにも指定された数多くの宝物が紹介される。すべて信仰の所産であり、歴史的な生命が宿っている。
 本書の眼目はやはり第三章「高野山の開創」であろうか。弘法大師空海の事蹟(じせき)や思想や人となりが端的に描かれている。大師は社会的な事業にふかく関わるいっぽうで、心の奥底では山林にこもり自然とともに生きたいという願望をつよく抱いて、高野山の開創にいたったという。真言密教では自然と人間は対立関係にあるものではなく、いわゆる保護すべき対象でもなく、広大無辺な大宇宙の自然との一体感によって、仏の世界に近づくことができる、と。
 来年は開創千二百年とか。手軽な新書判ながら、内容の濃いこの一冊をもって、また高野山をめぐりたいとおもう。
 (岩波新書・950円)
 まつなが・ゆうけい 1929年生まれ。今年11月まで高野山真言宗管長を務める。
◆もう1冊 
 松長有慶著『密教』(岩波新書)。密教研究の第一人者が密教の歴史や思想、現代的な意味を分かりやすく解説。
    −−「書評:高野山 松長 有慶 著」、『東京新聞』2014年12月14日(日)付。

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