覚え書:「青空みえる? 20年後の私たち:5 識者に聞く 支え合いか、自己責任か=神野直彦 衆院選」、『朝日新聞』2014年12月13日(土)付。

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青空みえる? 20年後の私たち:5 識者に聞く 支え合いか、自己責任か 衆院選
2014年12月13日 


(写真キャプション)「将来に何を引き継ぐのかを考えないといけない」と話す神野直彦さん

 20年後の社会を想像すると、支え合いの仕組みは細り、暮らしの安心が揺らいでいる−−。各世代が共通して抱える将来の不安が浮かび上がりました。衆院選を前に、「『分かち合い』の経済学」などの著書がある財政学者の神野直彦さんに聞きました。

 −−この20年とこれからの20年。どのようにとらえていますか…
 高度経済成長のように世の中が激変した時に比べれば、この20年はライフスタイルを含めそう大きく変わっていません。徐々に自然環境が破壊され、人間の結びつきも失われてきた。これらは人間にとって根源的な問題です。私たちは歴史の曲がり角に立っています。大切なのはスピードではなく、舵を切る方向を慎重に見極めることです。
 今年生まれた子どもたちが20歳になった時、どういう価値観の大人に育っているのかということに対し、私たちは責任を負っているとも言えます。このままでは競争に負けるぞとか、今議論されていることは本質的でしょうか? 引き継いでいかなければならないことは何か、真剣に考えなくちゃいけないと思います。

 −−今回の選挙では何が問われているのでしょうか。
 重要な選択の一つは、これからの社会のあり方です。支え合って助け合う社会にするのか、それとも自己責任の社会にするのか。従来の消費税は端的に言えば、所得税法人税を減税するためのものでした。それに対して2年前に決まった消費増税は、税収を社会保障の充実に充てるという初めての経験でした。

 −−なぜ社会保障のような支え合いの仕組みが生まれたのでしょうか。
 昔はまだ働けない子どもや働けなくなった高齢者は家族の中で働いている人に養われていました。しかし家族の機能が弱まりました。代わりに、みんながお金を出し合って支え合おうというのが社会保障の基本的な考えです。お互いに不幸に陥った時などに助け合いましょう、と。そういう意味で、税は悲しみの分かち合いです。世代間の連帯があって、命の鎖がつながっているわけです。
 自分で積み立てるから年金は払わないとか、健康なのになぜ保険料を出さなきゃいけないのだとか、損得勘定でものを言い出したら、社会保障はやめた方がいいという話になりかねません。将来の安全網の形と負担する税金は表と裏です。消費税だけではなく、所得税法人税といったほかの税のあり方も問われています。

 −−ただ、今回の選挙では目指す社会の姿が見えづらいと感じます。
 今回の選挙では、増税して社会保障をしっかり、という勢力は目立たない印象です。政党間の違いが見えづらく、選びようがないと言う声も聞きます。政策をパッケージでしか選べないことも関係しています。政党政治でありながら、本音では党の公約には反対だという人もいる。個々の候補者はいろいろな考え方を持っています。訴える政策の背景にある価値観や社会観が、投票先のヒントになるかもしれません。棄権も一つの意思ですが、未来の結果責任を負うのは政治家ではない。選択の結果は私たちに降りかかってきます。
 将来のビジョンがないと、痛みには耐えられません。それは政治の責任でもあるし、一人ひとりが考えていく問題です。理性の悲観主義、意思の楽観主義と言いますが、できっこないというのではなく、慎重に見定めて方向を決めたら舵を切っていく。間違えていると思ったら、緩急自在になおしていくという意識で、未来に望んでいけばいいと思います。(有近隆史・兼田徳幸)=おわり
じんの・なおひこ 1946年生まれ。東大名誉教授。政府税制調査会長代理などを務める。
    −−「青空みえる? 20年後の私たち:5 識者に聞く 支え合いか、自己責任か=神野直彦 衆院選」、『朝日新聞』2014年12月13日(土)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11504428.html





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