覚え書:「耕論:どうする、一票の格差 脇雅史さん、那須弘平さん、木村草太さん

2014年12月18日(木)付。

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耕論:どうする、一票の格差 脇雅史さん、那須弘平さん、木村草太さん
2014年12月18日

 今回の衆院選の「一票の格差」は違憲だとして一斉提訴があった。最高裁が先月、直近の参院選の格差を「違憲状態」と認定したばかり。司法のメッセージは何か、何が改革を阻むのか。

 ■憲法軽視、与党の責任放棄 脇雅史さん(自民党参院議員)

 「一票の格差」が最大4・77倍だった2013年参院選を巡り、最高裁が出した「違憲状態」の判決は、10年の参院選を「違憲状態」とした12年の最高裁判決と基本的に同じですね。いきなり違憲・無効は乱暴なので、まずは違憲状態。指摘を受けた立法府には、真摯(しんし)に対応してほしい、ということでしょう。互いを尊重する三権分立のありうべき姿です。

 ただ個人的には、今回は違憲でもいいぐらいです。前回の最高裁の求めに立法が応えていないからです。特に参院自民党立法府としての責任を果たしていない。

 具体的に話しましょう。12年判決を受け、参院では与野党協議会で選挙制度改革を話し合ってきました。参院自民党の幹事長で協議会の座長でもある私には、与野党が合意できる案をつくる責務が与えられました。

 このときの判決を読み込むと、参院選衆院選より一票の格差があって構わないとは言っていない。求められているのは「2倍未満」と考えられます。これだと「何増何減」といった弥縫(びほう)策ではもはやムリです。

 2倍未満にする手段は二つ。都道府県単位の選挙区を変えるか、比例区にするしかない。しかし比例区は自民、民主両党が反対。実現可能性を考えると選挙区をいじるしかない。結果として幾つかの選挙区を一緒にする「合区」案しかありません。

 最初に出したのは22府県を11選挙区にする案。最大格差は1・83倍です。与野党に議論の下敷きとして提示しました。

 ところが、最大会派で私の母体でもある参院自民党が動かない。反対はあっても、最終的には責任与党として代案を出すべきなのに、溝手顕正参院議員会長の「代案を出す必要はない」という発言を受け、党内でまともに議論をしない。

 最終的に合区の対象を10選挙区に縮小する調整案も示しましたが、その後、座長退任を機に、改革論議は事実上、止まってしまいました。

 司法の求めに立法が応えないのは、まさに憲法の否定。それほどに重い話です。今回の判決を受けてどうするかですが、このままだと次の最高裁判決は間違いなく「違憲」でしょう。

 実は、私は一票の格差が縮まれば政治がよくなるとは思っていません。より大事なのは、立派な候補者をどう選ぶかです。

 第二院の参院議員に望まれるのは、多彩な分野の誠実で有能な人材。その点で地方区と比例区を組み合わせた現行制度は悪くない。自民党で言えば、地方区では都道府県連が人材を吟味して推薦。比例区では様々な団体が専門家を選ぶ。それなりに有効な仕組みです。合区は都道府県の枠組みを残し、司法にも応える案なのに、参院自民党の無責任な姿勢が残念でなりません。(聞き手・吉田貴文)

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 わきまさし 45年生まれ。建設省(現国土交通省)を経て、98年参院選自民党比例区から初当選。参院国対委員長、幹事長を歴任した。今年9月に幹事長を交代。当選3回。

 

 ■司法と国会の「対話」必要 那須弘平さん(元最高裁判事、弁護士)

 最高裁判決の報道に接し、当初は、何の意外感もない結論に多少の寂しさを感じました。

 参院選の選挙区の「一票の価値」に5倍前後の格差があることが憲法の平等原則との関係で大きな問題であることは、2004年の大法廷判決以来、繰り返し指摘されてきました。

 これまで、最高裁違憲判断を回避し続けてきましたが、今回は「違憲・選挙無効」の判決を期待する向きもありました。しかし、やはりそこまでは踏み込めなかった。

 選挙を無効とした場合、直接、対象となるのは訴訟で取り上げられた特定の選挙区に限られますが、同程度の格差がある他の選挙区で選出された議員の地位にも、その正統性に疑いが生じ、政治的な混乱は予測しがたいものがあるためでしょう。

 その後、判決全文を取り寄せて子細に検討すると、注目すべき点にいくつか気づきました。

 第一は、16年に実施される次回選挙までに現行の定数配分規定を見直し、新制度の下で投票が行われるべきことを強く指摘している点です。それも、一部の選挙区の定数の増減にとどめず、「制度の仕組み自体の見直し」に及ぶ必要があると明示しています。次回選挙が現行の仕組みのまま実施されれば、違憲判決が下される可能性が高いことを示唆するものです。

 第二は、こうした考えが、多数意見を形成した裁判官11人のうち6人による補足意見の中で、より明確に指摘されている点です。これらの補足意見は多数意見と一体化して、現行規定を抜本的に見直す以外の道はないというメッセージを、国会や国民に対して訴えています。

 第三は、4人の裁判官が、現行定数配分規定を違憲とする反対意見を提出していることです。次回選挙が現行定数配分規定を抜本的に改めずに実施された場合の最高裁の将来の判断を先取りした形です。

 近年の最高裁判決は、主文だけでなく、判決理由の中に重要なメッセージを盛り込んで、国会や国民に訴えかけるものが目立ちます。08年の国籍法違憲判決、13年の非嫡出(ちゃくしゅつ)子相続分違憲決定が典型例です。衆参両院の定数訴訟を巡る累次の判決にも同様な傾向が見られます。

 最近カナダでは、「最高裁立法府の対話理論」が強調されているそうです。憲法秩序は、最高裁による違憲審査のみで保障されるのではなく、最高裁と国会などとの相互作用の中で実現されるものであり、ある種の「対話」が存在すべきだという意味を込めたものです。

 今回の最高裁判決が「都道府県を単位として定数を設定する現行制度を速やかに見直すべきだ」と国会に強く迫り、その実施時期を限って実現を求めたのは、対話理論の視点からも評価できることだと考えます。(聞き手・山口栄二)

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 なすこうへい 42年生まれ。69年弁護士登録。日弁連常務理事などを経て、06〜12年最高裁判事プロ野球の統一球問題に関する有識者による第三者調査・検証委員会委員長を務めた。

 

 ■地方の声くむ制度整備を 木村草太さん(憲法学者

 最高裁はこれまで、「一票の格差」の訴訟の判決では、大きな原理原則を述べるだけで、具体的にどうすべきか述べないことが多かった。

 今回の判決は、都道府県単位の仕組みを維持しながら投票価値の平等を実現するのは限界に達していると指摘したうえで、「合区でやれ」という強いメッセージを出したという点が最大の特徴でしょう。

 最高裁がそこまで踏み込んだ背景には、衆院参院選挙制度が似通ってきているという問題があると思います。

 本来、参院衆院とは別の形で民意を反映するようにしなければなりません。そうしていれば、仮に衆院都道府県に全くこだわらない選挙制度なら、参院都道府県にこだわるという説明も可能でした。

 しかし実際には、衆院都道府県の枠の中で選挙区の区割りをしています。それなら参院都道府県という枠から離れてもいいのではないかという議論は、説得力があると思います。

 ただし、判決が投票価値の平等を実現する方法として、合区しか示していないのには違和感があります。論理的には、合区以外にも、人口の多い大都市部の定数を増やす方法もあるからです。

 今のような財政状況で、議員の定数を増やすのは政治的に難しいかもしれません。しかし、私は合区より、定数を増やす形で一票の格差をなくし、歳出削減の要請に対しては、歳費など議員1人当たりの経費を削減することで対応した方が合理的だと思います。

 なぜなら、あまりに議員数を減らし過ぎると、少数ではあっても重要性のある意見が切り捨てられ、国民の多様な意思を議会に反映させることが困難になってしまうからです。

 合区によって、人口の少ない地方の定数を削減しようとすると、当然ながらその地方からの反発が予想されます。これに対しては、地方の意見を聞いてそれを国政に採り入れる仕組みをパッケージとして提示することが必要になります。

 国の成り立ちが日本とは異なりますが、例えばドイツの連邦参議院は、各州政府の閣僚が議員になっています。フランスの場合、地方自治体の首長が国会議員を兼任することができるようになっています。

 日本の参院地方自治体の首長や議員が意見を述べる場を定期的に作ったり、一定周期で地方を巡回する会期を作ったりして、地方の意見を採り入れる仕組みを整えるなどして、地方の声を聞く院として衆院に対する独自性を持たせることは可能でしょう。ただしその場合でも、議員の選挙における投票価値の平等はあくまで維持されなければならないと思います。(聞き手・山口栄二)

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 きむらそうた 80年生まれ。東京大学法学部助手を経て、06年から首都大学東京准教授。著書に「キヨミズ准教授の法学入門」「憲法の創造力」「テレビが伝えない憲法の話」など。
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2014年12月18日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11512563.html





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