覚え書:「書評:沈みゆく大国 アメリカ 堤 未果 著」、『東京新聞』2014年12月21日(日)付。

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沈みゆく大国 アメリカ 堤 未果 著

2014年12月21日


格差社会 厳しい現実
[評者]向井承子=ジャーナリスト
 「資産二〇〇〇万ドル以上の〇・一%(の富裕層)が国全体の富の二〇%を所有」する一方で、国民の三人に一人が医療費を支払えない米国。著者の言う「貧困大国」に「改革」を掲げて登場、不可能と思われた医療保険制度改革を実現させたオバマ大統領だった。「(誰もが)無保険や低保険によって死亡することがあってはならない」。「オバマケア」の実現は「いいことずくめ」のはずだったが、本書の見出しには「がん治療薬は自己負担、安楽死薬なら保険適用」「保険証を握りしめながら医師の前で死亡」などと、始動後の現実が並ぶ。
 オバマケアは「マネーゲーム大国」米国の本質もあぶり出した。保険料を逃れようと労働者のパートタイム化を進める企業、進行する労働組合の解体。無保険者の増大、医療費カットで受け入れ先を失う高齢者。「介護は家族の尊いお仕事」と勧奨する政府…。日本の社会保障で耳なれたフレーズばかりなのに驚く。「沈みゆく大国」の現実は日本の「すでに起こった未来」(ドラッカー)なのか。
 「次なるマネーゲームのターゲットは日本」と予言する著者が救いとしてあげるのは憲法二五条。日本の医療は「生存権に基づく社会保障の一環」。すべてを商品化のターゲットとする米国との根本的な違いだという。国家のあり方、人権の存在意味を改めて問われる。
集英社新書・778円)
 つつみ・みか ジャーナリスト。著書『政府は必ず嘘(うそ)をつく』など。
◆もう1冊 
 堤未果著『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)。貧困が生み出す肥満など米国の病弊に迫った二〇〇八年の作品。
    −−「書評:沈みゆく大国 アメリカ 堤 未果 著」、『東京新聞』2014年12月21日(日)付。

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沈みゆく大国アメリカ (集英社新書)
堤 未果
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