覚え書:「書評:台湾現代史 何 義麟 著」、『東京新聞』2014年12月21日(日)付。

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台湾現代史 何 義麟 著

2014年12月21日


◆抑圧された人々を記憶化
[評者]菅野敦志=名桜大上級准教授)
 一九四五年から現在までを対象とした台湾現代史の概説書である。本書の特徴は台湾における歴史観の相違を一九四七年の二・二八事件(台湾人による反政府暴動から展開した政治改革要求運動を政府軍が弾圧し二万人余を虐殺)を根源とし、後の民主化運動も二・二八事件の真相究明の要求とともに展開をみせたことなど、同事件の影響を核として台湾の「戦後」史を詳細かつ簡潔に紹介している点にある。
 台湾社会でエスニック間(外省人本省人)の和解と共生がいまだ完全に達成されていないのは、台湾としての主体性を強調する台湾史観と中華民国(中国)としての正統性を強調する中国史観のせめぎ合いにあるとする。すなわち、日本統治時代を経験した本省人による台湾人意識の形成に加え、二・二八事件白色テロという国家による暴力と人権抑圧への異議申し立てが戒厳令下でタブーとされ続け、共産党との「準戦時下」における体制防衛を口実とした圧政への憤怒がその根本的な原因にあると指摘する。そして後の民主化までの長い闘争の道のりを丹念に描き出す。
 歴史が為政者の「国史=ナショナルヒストリー」ではなく、人権、尊厳、自由を求めながらも抑圧されてきた人々を記憶化する営みであるべきことを本書は改めて教えてくれる。その記述は最新の研究成果を取り入れてなされ、学術上の価値も高い。
 最後に二〇〇八年の国民党政権の復活と中国への急速な歩み寄りが「第二の二・二八事件」を引き起こすことのないよう歴史を教訓とし、権力者による弾圧や迫害行為の真相究明と和解をめぐる「移行期の正義」の重要性が主張される。しかし、その実現は単に台湾内部の問題に止まるものだろうか。著者の眼差(まなざ)しは、かつての帝国の記憶を忘却し、現代台湾の歩みに対する関心と理解を欠き続けてきた日本にも向けられていると思える。台湾から日本を見つめ直すうえでも必読の書である。
平凡社・3024円)
 か・ぎりん 1962年生まれ。台北教育大副教授。著書『二・二八事件』など。
◆もう1冊 
 鄭鴻生(ジュンホンシュン)著『台湾68年世代、戒厳令下の青春』(丸川哲史訳・作品社)。台湾の後の民主化運動につながる釣魚台(尖閣諸島)運動の実録。
    −−「書評:台湾現代史 何 義麟 著」、『東京新聞』2014年12月21日(日)付。

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