覚え書:「今週の本棚・この3冊:東映映画=杉作J太郎・選」、『毎日新聞』2014年12月28日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:東映映画=杉作J太郎・選
毎日新聞 2014年12月28日 東京朝刊

 <1>東映ゲリラ戦記(鈴木則文著/筑摩書房/2052円)

 <2>高倉健インタヴューズ(野地秩嘉著/プレジデント社/1728円)

 <3>ほとんど人力(じんりょく)(菅原文太著/小学館/1620円)

 鈴木則文さん、高倉健さん、菅原文太さんのお三方は、いずれも今年お亡くなりになった。

 僕がその三人と出会ったのはいずれも東映の映画館。四国松山の「東映グランド」だった。そこで上映されていたのは俗に言う「やくざ映画」だったが、今日の「やくざ」とはニュアンスがかなり違う。まったく違う。

 そこで僕は男としての生きかたを学んだ。

 当時は男として、と思っていたが、いま考えれば人間としての生きかたを学んだ。

 ぼんやりしていると時代にのみ込まれていく。時代ではないかもしれない。時流にのみ込まれていく。世の中の流れにあわせたほうが楽しいし、お金も儲(もう)かるし、出世もできる。だがそこには自分がいない。

 それを学んだ。

 時代を作るのは社会だ。集団だ。その集団を形成するのはひとりひとりの人間なのに、その人間がふらふらしていたのでは話にならない。

 それを教わった。学校では絶対に教えてくれなかったことを僕は映画館の暗がりで学んだ。

 この三人は自分で示した道を自分自身の足でさらに極めていった。それは責任感から来るものだったとも思える。

 『東映ゲリラ戦記』は鈴木さんが監督を務めた不良性感度の強い作品群を記した回想録だ。芸術家は変節を恐れてはならない、と言いながら鈴木さんはまったく変わらない。観客に対するまっすぐな気持ちを一瞬も忘れない。

 『高倉健インタヴューズ』は健さん最後の映画となった『あなたへ』を公開するタイミングで出版されたインタビュー集だ。健さんはとにかく一貫している。一貫するために人生を捧(ささ)げたとも言える。

 『ほとんど人力』は自分の生きかたの筋を通すために映画俳優を辞され、農業を営まれていた文太さんがいろいろな分野で孤独を恐れずに生きるひとたちと語り合う対談集だ。

 中東で灌漑(かんがい)工事を成し遂げた医師の中村哲さんとの対談中、文太さんは中村さんを評して「すがすがしい生き方」という言葉を使っている。

 三人はともに東映という映画会社は離れられたが、それぞれが別の道でその生き方を全うし、奇(く)しくも今年、お亡くなりになった。

 その生き方はまさに「すがすがしい」ものだったと思う。

 人生は全うするためにあるのだ。
    ーー「今週の本棚・この3冊:東映映画=杉作J太郎・選」、『毎日新聞』2014年12月28日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20141228ddm015070009000c.html



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