覚え書:「SUNDAY LIBRARY:緑 慎也・評『道徳性の起源』フランス・ドゥ・ヴァール/著」、『サンデー毎日』毎日新聞社、2015年01月06日(火)号。

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SUNDAY LIBRARY:緑 慎也・評『道徳性の起源』フランス・ドゥ・ヴァール/著
2015年01月06日

 ◇哺乳類は元々他者にやさしいのだ

◆『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール/著、柴田裕之/訳(紀伊國屋書店/税抜き2200円)

 困った人を助けることは正しいと学校では教えられる。しかし、教育されないと人は他者を思いやったり、善悪を区別したりできないのだろうか。霊長類研究者の著者によれば、ヒトは生まれつき、他者の感情を自分のもののように感じとる共感能力を持つ。その能力を応用して、他人のための行動が生まれるという。

 チンパンジーの群れの上位のオスは、メンバーたちが食べ物をめぐって衝突すると、争う両者の間で腕を広げてケンカが収まるまで立ち続ける。年老いて弱ったメスのお尻を別のメスが押し上げて木登りを助けることもある。チンパンジーだけではない。目の不自由なゾウと健常なゾウがペアで行動していたり、病気の猫を、仲良しの犬が舐めてやったりする。

 自己を犠牲にしてまで他者につくす行為は「人間らしい」とよく言われる。しかし本書を読むと、「人間らしい」は「霊長類らしい」とか「哺乳類らしい」と言いかえなければならない気がしてくる。

 著者は、豊富な実例を挙げて、道徳性がヒトの本性に根ざしていると説く一方、それと同じくらいの強さで、道徳性が宗教に由来するのではないと訴える。「道徳性が宗教に先行し、その起源については、人間の仲間の霊長類を考察することで多くを学べる」。この主張は、宗教によって道徳性が生まれたと考えている人々には刺激的に響くだろう。しかし、著者は決して宗教がいらないと言っているわけではない。「宗教が創り出されて、道徳性が増強された」と見れば、たしかに価値があるからだ。

 霊長類、あるいは哺乳類として元々ヒトに埋めこまれている道徳性をうまく引き出す。それが教育の肝ではないだろうか。教育によって子供たちに道徳を植え付けようと考える政治家が新政権の政治家に多いのが気がかりだ。
    −−「SUNDAY LIBRARY:緑 慎也・評『道徳性の起源』フランス・ドゥ・ヴァール/著」、『サンデー毎日毎日新聞社、2015年01月06日(火)号。

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みどり・しんや 1976年生まれ。ライター兼編集者。科学技術を中心に取材。『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(講談社、共著)

サンデー毎日 2014年1月18日号より> 





http://mainichi.jp/feature/news/20150106org00m040029000c.html





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