覚え書:「書評:東芝の祖 からくり儀右衛門 林 洋海 著」、『東京新聞』2015年01月18日(日)付。

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東芝の祖 からくり儀右衛門 林 洋海 著
 
2015年1月18日
 
◆模倣に始まる技術史
[評者]橋本克彦=作家
 「からくり儀右衛門(ぎえもん)」こと田中久重について多くの書物や研究がある中で、本書は儀右衛門の時代背景を調べぬき、決定版ともいえる労作、好著となった。
 確かに「からくり儀右衛門」は日本の発明王といってよい。儀右衛門の「万年自鳴鐘」を復元しようとした現代の技術者たちが脱帽するほど完成度はすばらしい。が、その基本構造は西洋の時計技術であった。したがって厳密に見れば模倣王といわざるをえない。が、それは当然である。近代科学技術の源流は西洋であり、日本は鎖国。儀右衛門が生まれた一七九九年(寛政十一年、久留米藩出身)からの日本で西洋の科学技術をどのようにものにするか、幕末から明治にかけての激動期、文明開化の最前線で儀右衛門は善戦敢闘し、非西洋諸国では他に例のないほどの突出した業績を残した。
 攘夷(じょうい)の精神では西洋風のものすべてが汚らわしい。久留米藩は狂信的攘夷主義者真木和泉の出身地。真木直系の弟子たちが儀右衛門を苦しめた。隣の鍋島藩は早くから儀右衛門を認めたが久留米藩攘夷派は儀右衛門の後援者、藩重臣らを暗殺する始末だった。その歴史過程が本書のもうひとつの読みどころだ。技術模倣は恥ではない。技術史は模倣の後の絶えざる改良で刻まれる。儀右衛門の謙虚さと探究心に裏打ちされた「模倣」は、物作り日本の原点をも指し示している。
現代書館・2160円)
 はやし・ひろみ 1942年生まれ。作家・デザイナー。著書『新島八重』など。
◆もう1冊
 立川昭二著『からくり』(法政大学出版局)。江戸の茶運び人形など、からくりの技術史。西洋のからくりにも触れる。
    −−「書評:東芝の祖 からくり儀右衛門 林 洋海 著」、『東京新聞』2015年01月18日(日)付。

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