覚え書:「今週の本棚・この3冊:特定秘密保護法=宇都宮健児・選」、『毎日新聞』2015年01月25日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:特定秘密保護法宇都宮健児・選
毎日新聞 2015年01月25日 東京朝刊

 <1>秘密保護法 何が問題か−検証と批判(海渡雄一・清水勉・田島泰彦編/岩波書店/2052円)

 <2>ある北大生の受難−国家秘密法の爪痕(上田誠吉著/花伝社/1836円)

 <3>国家と秘密 隠される公文書(久保亨・瀬畑源著/集英社新書/778円)

 多くの国民の反対を押し切って二〇一三年一二月六日に成立した特定秘密保護法が、二〇一四年一二月一〇日に施行された。

 一冊目の『秘密保護法 何が問題か−検証と批判』は、特定秘密保護法の成立直後に、緊急出版されたものである。第一線の研究者や実務家らが、「何を秘密にするのかが限定されていない」「政府の違法行為を秘密に指定してはならないことが明記されていない」「公務員の内部告発行為やジャーナリスト・市民による秘密の取得行為が厳罰に処せられる」などの特定秘密保護法の危険性や問題点を明らかにしている。

 巻末には、特定秘密保護法の逐条解説に加えて、二〇一三年六月一二日に南アフリカ共和国のツワネで公表された「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」、いわゆる「ツワネ原則」が収録されている。

 二冊目の『ある北大生の受難−国家秘密法の爪痕』は、朝日新聞社から一九八七年九月に出版され絶版になっていたものを、秘密保護法制定の動きが出てくる中で花伝社により復刻されたものである。

 日本が真珠湾を攻撃した一九四一年一二月八日の朝、北大生宮澤弘幸さんが軍機保護法違反で逮捕された。宮澤さんが千島・樺太(からふと)を旅行したときに見聞きしたことを、家族同然に親しくしていた北大予科の英語教師でアメリカ人のレーン夫妻に話したことが、「軍事機密」の「探知」「漏洩(ろうえい)」にもあたるとして逮捕された冤罪(えんざい)事件である。宮澤さんは、札幌、夕張、江別の警察署で取り調べられ、「逆さ吊(づ)り」の拷問を受ける。一九四二年一二月札幌地方裁判所は軍機保護法違反として宮澤さんに懲役一五年の判決を下した。宮澤さんは、網走刑務所に服役後、栄養失調と結核にかかり宮城刑務所に移送され、一九四五年一〇月一〇日釈放されたが、一九四七年二月二二日、二七歳の若さで死去した。

 三冊目の『国家と秘密 隠される公文書』は、情報公開制度を機能させる上で、公文書管理制度の重要性を指摘した本である。

 著者らは、わが国は、情報公開や公文書管理については、まだまだ後進国であり、国民主権の民主主義社会を確立する上では、情報公開の徹底と公文書管理制度の確立こそ求められていると指摘している。また特定秘密保護法については、これまでの情報公開の流れに逆行する法律であり、廃止されるべきだと強調している。
    −−「今週の本棚・この3冊:特定秘密保護法宇都宮健児・選」、『毎日新聞』2015年01月25日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150125ddm015070033000c.html




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