覚え書:「特集ワイド:「松岡修造」はなぜ愛される?」、『毎日新聞』2015年02月10日(火)付夕刊。

5_2

        • -

特集ワイド:「松岡修造」はなぜ愛される?
毎日新聞 2015年02月10日 東京夕刊

(写真キャプション)熱心に子どもたちを指導する松岡修造さん=和歌山市園部の和歌山インドアテニスクラブで2014年9月27日、谷田朋美撮影


柳川高校時代のはつらつプレーも】写真特集「松岡修造の軌跡」
 もしかしたら、日本一「熱い男」なのかもしれない。元プロテニスプレーヤーで、スポーツキャスターの松岡修造さん、47歳が大人気だ。現役引退からはや15年以上が過ぎた。なぜ、今なのか。「愛される理由」を探ってみた。【田村彰子】

 ◇変だけど正論

 <今日から君は噴水だ!>

 <自我を捨てろ。雪ダルマになれ>

 <おはよういただきます!>

 ぱらぱらと日めくり式のカレンダー「まいにち、修造!」をめくっていると、つい噴き出してしまう。やたら「熱い」のは伝わるが、一見、何を言っているのか分からない。松岡さんの百面相と気合の入ったポーズもなんだか恥ずかしい。しかし、これが今、売れに売れているという。

 昨年9月の発売から、累計15刷60万部を発行。月末に5万部の増刷も決まった。情報会社オリコンによると、書店で売られているカレンダーとしては、過去最高の「AKB48オフィシャルカレンダーBOX2012」を大きく上回っていると言えば、どれだけの大ヒットか分かるだろう。

 みなさん、これをいつ、どこで読んでいるのか。カレンダーを企画したPHP研究所の制作担当者は「どうですかね……想定したのは、自分の心と一人で向き合った時です」と話す。実際に買った男子大学生(22)に聞いてみた。「テレビの横にどーんと飾ってありますよ。毎朝、起きたら見ています。受験生の妹に『松岡さんがこう言ってるよ!』と、見せたりしてね。よく読んでください。すごく正論を言ってますから! 彼は本物の教育者です」とご本人に負けず劣らず熱い。

 制作担当者も、松岡さんの真剣さと熱さと気遣いに太鼓判を押す。「人を傷つける言葉は載せないと言われました。『家族の力が』とか『友人に支えられて』のような言葉は、家族や友人がいない人もいるとの考えから外しています。他人に何かを期待する言葉もなしです」と話す。あくまで自分と向き合うための言葉ということか。ちなみに「噴水」の解説は「喜びも悲しみも出し切っている。だからキラキラと輝いている。君もすべてを出し切ってみろ」。打ち合わせ中、松岡さんにふざけている様子は全くなく、眉間(みけん)にしわを寄せて言葉を選ぶような雰囲気だった、らしい。

 <後ろを見るな! 前も見るな! 今を見ろ!>

 よくよく読めば、確かにまじめな言葉が並ぶ。

 ◇みんなで楽しめるキャラ

 そんなまじめな「熱い男」は、CMでもコミカルな役柄を演じて引っ張りだこ。2014年1−11月には11社のCMに出演し、嵐の桜井翔さんと並んで男性1位だ(ニホンモニター調べ)。無料通信アプリ「LINE(ライン)」のスタンプのキャラクターにもなっている。いつからこんなに人気に?

 電通総研の小木真さんは「タレントの好感度を示す『ビデオリサーチ・テレビタレントイメージ調査(関東地区)』を見ると、08年ごろから10代、20代の人気が高まっている」と話す。「ここ半年の人気は、テニスの教え子の錦織圭選手の活躍の影響が大きいと思いますが、その前からじわじわ好感度を上げています」

 なぜ、松岡さんが何の選手だったのかも知らないような若者の支持を得るのか。小木さんは「いじられキャラ、という要因が大きい」と話す。10代、20代の今の流行は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使ってみんなで楽しみ、共感を得る遊びだという。「松岡さん自身は、いたってまじめに『熱い男』をやっているように見えます。でも、どこか笑えるところがある。それがいい。松岡さんのちょっと意味不明な励ましの言葉をSNSで突っ込みながら、みんなで楽しめる」と分析する。

 ツイッターでは「松岡修造が訪れる国や地域は暑くなる」と話題になり、訪問先の気温の変化がまとめられていた。「松岡修造」は、みんなで楽しめる「キャラクター」らしい。

 ◇ぶれずに熱い

 放送作家山田美保子さんは「錦織君の活躍は確かにラッキーでした。でも、それまでの下地がなければ、ここまでの人気にはならなかったと思います」と話す。松岡さんが東宝元社長の次男で、小学校から高校の途中まで慶応に通ったいわゆる「お坊ちゃま」なのは有名な話だ。

 「年配の女性は、基本的に親の顔が見える2世の人が好き。その上ただのお坊ちゃまではなく、リスクを負ってテニスの世界に入り、それなりの成功を収めたというサイドストーリーもある。いちずに熱い男であることが、うそ臭くない。さわやかで熱い。それをぶれずにやり続けた勝利なのだと思います」

 前出の小木さんも、松岡さんの「ぶれなさ」は、人気の大きな要因とみる。「今の視聴者は、本物かどうかかぎ分ける嗅覚をすごく持っています。うそをついたり、作り込んだりしていないかをすごく疑う。松岡さんは、テニスで実績を残してきた本物で、キャラクターと発言内容にずれがない」。だから多少暑苦しく思えても、好意的に受け入れられる。「ポジティブに熱いって、決して悪いことではない。錦織選手に対する熱い応援を見て、自分も励まされたいと思う人も多いはずです」。先行き不透明な現代、松岡さんの真っすぐな熱さは多くの人にじわじわと届いているのかもしれない。

 ふと、オフィシャルサイトのコラムを見ると、全豪オープンでの錦織選手の戦い方について「これでもか!」というほど詳細に、力を込めて書いていた。そして途中で「おい修造、何熱くなっているんだ! どこまで書けば気が済むんだ! 読んでくれる皆さんの身になって考えろ 修造!」と、自分に突っ込みを入れだした。こらえきれなくなり職場で大爆笑。あくまで真剣に、そして私たちのことまで気遣ってくれる。修造ナイス! 私も応援されたくなってしまった。

 日めくりの作成中、松岡さんは「説教くさい言葉は、特に子どもが受け入れない。おもしろいことを言っていると笑って聞いてもらっているうちに、大切なことや本当のことが伝わる」と話していたという。つい熱くなり、笑われれば、普通は傷つく。だがそこをよしとする……強い。

 日めくりを買い、「カメはベストを尽くした。君はどうだ?」のメッセージを横目で見ながら、この原稿を書いている。全力取材をしたつもりだが果たして魅力を分析できた……かな?
    −−「特集ワイド:「松岡修造」はなぜ愛される?」、『毎日新聞』2015年02月10日(火)付夕刊。

        • -


http://mainichi.jp/shimen/news/20150210dde012200006000c.html





5z

Resize1226