覚え書:「貧者の教会:家族の形 上・中・下」『毎日新聞』2015年03月17日(火)〜20日(金)付夕刊。

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貧者の教会:家族の形/上 同性愛者を受容へ 保守派に残る根強い反発
毎日新聞 2015年03月17日 東京夕刊

 2月18日、バチカンのサンピエトロ広場。フランシスコ・ローマ法王(78)が世界各地からの巡礼者に講話を垂れる一般謁見で、大聖堂の正面階段上の「特等席」に米国人信徒49人の姿があった。カトリックの同性愛者支援団体「ニュー・ウェイズ・ミニストリー」のメンバーだ。

 「感涙にむせぶ同性愛者の参加者もいた」。団体事務局長のフランシス・デベルナルドさん(56)が語る。1977年に団体を創設した修道女のジニーン・グラミックさん(73)はメディアに「教会の辺境に押しやられていた人々を迎え入れようとする法王の姿勢の表れ」と解説した。

 男女の結婚を神聖視するカトリックは、同性愛を自然に反する「不道徳な行い」と拒絶してきた。だが、一昨年3月に就任したフランシスコ法王は「神を求める同性愛者を裁くとしたら私は何者か。のけ者にしてはならない」と融和的な姿勢を打ち出した。教義にこり固まらず、社会的弱者に寄り添う「貧者の教会」路線の反映だ。

 背景には中南米や北米、欧州で進む同性愛者認知の潮流がある。法王の出身国アルゼンチンは2010年に中南米で初めて同性婚を合法化、「同性愛者もごく自然に教会に足を運んでいる」(バチカン専門記者)という。

 同性愛を巡るバチカンのスキャンダルに終止符を打ちたい思惑ものぞく。一昨年2月に生前退位した前法王ベネディクト16世の時代、バチカン内部の同性愛者がロビー(圧力団体)を結成し、策動していると報じられた。法王は「ある人物が同性愛者であることと、ロビーとは区別しなければならない」と同性愛者を擁護している。

 だが、カトリック教会内の心理的抵抗感は依然、根強い。法王が昨年10月に招集した世界代表司教会議。同性愛者を「キリスト教徒社会に寄与することができる」と評価した中間報告に対し、保守派から「教会が『同性愛者に前向きな側面がある』と言うわけにはいかない」と猛反発が出て、今年10月の次回会議までの継続協議となった。

 冒頭の謁見でも法王が「ニュー・ウェイズ・ミニストリー」のメンバーに直接、言葉をかけることはなかった。それでも、デベルナルドさんは「法王が教義を変えるとは思わないが、対話の呼びかけによって『同性愛者受け入れ』への一歩を踏み出した」と評価する。同性愛者の「排除」から「受容」へ。約2000年の歴史を持つカトリック教会がゆっくりとかじを切ろうとしている。

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 フランシスコ法王が就任して19日で丸2年。多様化する現代社会の「家族の形」にどう適応するか。針路を模索するカトリック教会の姿を報告する。【ローマ福島良典】
    −−「貧者の教会:家族の形/上 同性愛者を受容へ 保守派に残る根強い反発
毎日新聞 2015年03月17日(火)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150317dde007030024000c.html

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貧者の教会:家族の形/中 同棲カップルも祝福 社会の変化、後追い
毎日新聞 2015年03月18日 東京夕刊

 昨年9月14日、バチカンのサンピエトロ大聖堂に20組の新郎新婦が集まった。フランシスコ・ローマ法王(78)による異例の合同結婚式。法王の結婚式ミサは先々代の故ヨハネ・パウロ2世が2000年の「大聖年」に行って以来約14年ぶり。カトリックの教えで「罪」とみなされる同棲(どうせい)中の男女も含まれ、「開かれた教会」をアピールする場となった。

 挙式した民間企業の広報担当、ガブリエッラさん(49)と、精神療法士の夫、グイドさん(56)は「信じられないような歓喜の瞬間だった」と振り返る。ガブリエッラさんはシングルマザー。「年齢的にも結婚は重荷」と感じて教会での結婚式を避け、グイドさんとの同棲生活を5年前から送ってきた。

 バチカンは同棲を「重大な罪」とみなし、「事実婚は道徳観の劣化」と警鐘を鳴らしてきた。「同棲中だったため、(ミサでの重要儀式である)聖体拝領を受けられなかったのがとてもつらかった。のどが渇いているのに水が飲めないような苦しみだった」とガブリエッラさんは信仰生活上の苦悩を明かす。

 そんな2人に地元教会の神父から法王の合同結婚式の話が持ちかけられた。式にはガブリエッラさんの14歳の娘も出席した。肩身の狭い思いをしてきた中年の同棲カップルが法王の祝福で一躍、脚光を浴びた。約1カ月後にバチカンで開かれた世界代表司教会議では「愛ある同棲には聖なる要素がある」との好意的な意見も出た。

 欧米諸国などを中心に近年、束縛の多い正式な結婚の形を取らずに同棲生活を送る男女が増えており、事実婚として法制化している国もある。フランスでは結婚とは別に共同生活の契約「連帯市民協約」の制度があり、事実婚カップルにも結婚した夫妻と同等の権利が認められている。

 カトリック教会には「このままでは時代から取り残され、信徒の要請に応えられなくなる」という危機感がある。「『同棲は教義に反する』とはなから言い切ってしまえば、人々とのつながりを失ってしまう」。法王庁で結婚や離婚の問題を扱う法文評議会議長のフランチェスコ・コッコパルメリオ枢機卿(77)が指摘する。

 法王は合同結婚式で「家族は社会を形作るレンガ」「結婚は人生の象徴だ」と家族と結婚の重要性を強調した。「法王は、多様化する現代家族の新しい形に取り組もうとしているのだと思う」。晴れの合同結婚式から半年。ガブリエッラさんはカトリック教会の変化を肌で感じ取っている。【ローマ福島良典】
    −−「貧者の教会:家族の形/中 同棲カップルも祝福 社会の変化、後追い」、『毎日新聞』2015年03月18日(水)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150318dde007030032000c.html


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貧者の教会:家族の形/下 離婚信徒へ態度軟化 「結婚は生涯」の建前崩れ
毎日新聞 2015年03月20日 東京夕刊

(写真キャプション)ローマ郊外の教会で開かれた夜間の集いに出席し、意見交換する離婚したカトリック信徒たち=2015年3月13日、福島良典撮影

 ローマ郊外にあるキリスト教カトリックの教会。3月13日夜、近所に暮らす男女の信徒が三々五々集まる。離婚した信徒を支援するカトリック団体「キリスト教徒別居家族協会」のメンバーだ。

 「20−30年前に離婚すればスキャンダルだったが、今は『個人の悩み』と受け入れられるようになった」。離婚に向けて夫と別居中のジュジ・ラトーレさん(46)が「周囲の目」の変化を指摘する。「教会の規則は変わらないが、態度は変わってきた」と、仲間から同調の声が上がった。

 カトリックの結婚は男女が神の前で「生涯の夫婦の絆」を誓う神聖な行為で、解消できない決まりだ。行政手続きで離婚した信徒が再婚するには「これまでの結婚が無効だった」との宣言を教会から取り付けなければならない。無効宣言を得ずに再婚した場合、ミサで重要儀式の「聖体拝領」を受けられないルールになっている。

 だが、フランシスコ・ローマ法王(78)が昨年10月にバチカンで招集した世界代表司教会議では長年適用されてきたこのルールを変更するかどうかが話し合われた。「教会は教義に厳格なあまり人々を遠ざけてきたが、今の法王になって開放的になっている」とラトーレさんが語る。

 背景には、離婚する信徒が増え、「結婚は一生涯」という教会の建前が崩れ始めている事情がある。バチカンのお膝元でカトリックの影響が強い保守的なイタリアで別居中または離婚したカップルの数は2001−11年の10年間で倍増した。

 再婚を望む離婚信徒が結婚無効宣言を取り付けるには時間とお金がかかるため、世界代表司教会議では手続きを簡素化する案が議論された。しかし、「聖体拝領を受けられない」というルールを変えるかどうかで参加司教の間で意見が割れた。

 「教会は門戸をもっと開く必要がある」。フランシスコ法王は昨年12月のアルゼンチン紙のインタビューで、離婚信徒を教会が「事実上の破門扱い」をすることをやめ、胸襟を開いて「受け入れる」必要性を強調した。だが、保守派には「教義がないがしろになる」との懸念がある。

 「法王は(教義よりも)人物重視だが、聖職者の思考を変えるのは難しく、改革への抵抗は大きい」。バチカン日刊機関紙オッセルバトーレ・ロマーノの元副編集長、ジャンフランコ・ズビデルコスキー氏が指摘する。「人物本位」の取り組みが教会の閉鎖性を打破できるのか。在位3年目に入る法王の改革は正念場を迎えている。【ローマ福島良典】
    −−「貧者の教会:家族の形/下 離婚信徒へ態度軟化 「結婚は生涯」の建前崩れ」、『毎日新聞』2015年03月20日(金)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150320dde007030030000c.html





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