覚え書:「メディア時評:批判封じる「魔法の言葉」注視せよ=批評家・濱野智史」、『毎日新聞』2015年03月21日(土)付。

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メディア時評:批判封じる「魔法の言葉」注視せよ=批評家・濱野智史
毎日新聞 2015年03月21日 東京朝刊

 今回取り上げるのは、「見過ごせない! 安倍首相のヤジ」との見出しが載った毎日2月26日夕刊である。周知のとおり、先月19日の国会論戦中に安倍晋三首相が「日教組!」などと民主党議員に向けて口汚いヤジを飛ばしたこの問題。その後首相本人は事実誤認であったと謝罪したため、メディアではそれほど追及されなかった。しかし筆者が考えるに、これは「ネット時代」の政治と言論を考える上で、極めて重要な問題をはらんでいる。

 そのことを同記事で端的に指摘しているのが、ネット右翼集団・在特会を追いかけた著作「ネットと愛国」で一躍有名となった安田浩一氏である。同氏は、安倍首相の「日教組」というヤジは「『ネット右翼ネトウヨ)』と呼ばれる人たちが好んで使う罵倒の言葉」、例えば「反日」「売国奴」「在日」等のレッテルと同種であると指摘する。実際、「日教組」はネトウヨがやり玉に挙げる組織の一つである。なぜなら日教組は、リベラル/左翼(サヨ)の牙城であり、日の丸・君が代を否定し自虐史観を教える「反日」集団だから、というわけである。

 なぜネトウヨは、かように単純稚拙な罵倒の言葉を使うのか。安田氏によれば、「そう口にするだけで相手の言論を封じ込め、問答無用でおとしめ、自らが優位に立てる」と考えているからだという。

 これは筆者にも思いあたる節がある。かつてネット右翼について論じるテレビ番組に出演した際、私も「在日」とののしられたことがあるのだが、その根拠がすごかった。それは私が「ネット右翼」という言葉を使ったから、なのである。というのも「ネット右翼」というのは反日集団側が自分たちをおとしめるために用いる蔑称だから、そうした言葉を使っている時点で瞬時に「在日」認定されたのだ。

 私は驚愕(きょうがく)した。ある特定の言葉を使っただけで、即座に「敵性認定」的なレッテルが反射的に適用されてしまうということ。これでは確かにまともな議論になどなりようがない。安倍首相の「日教組」ヤジは、これと同種のまさに「問答無用」の魔法の言葉なのである。

 そんな言葉を、一国の首相が、しかも国会という場で使ったことを、私たちはもっと憂慮すべきだ。かつて安倍首相は、自身のフェイスブックネット右翼系サイトの記事を紹介していたが、新聞をはじめ各メディアは、こうした「ネット言説」を含めた動向をより注視し、批判を加えていくべきだ。(東京本社発行紙面を基に論評)
    −−「メディア時評:批判封じる「魔法の言葉」注視せよ=批評家・濱野智史」、『毎日新聞』2015年03月21日(土)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150321ddm005070022000c.html





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