覚え書:「こちら特報部:なぜ『国際平和支援法』なの?」、『東京新聞』2015年04月23日(木)付。

Resize2163

        • -

こちら特報部
戦争に協力するのに
なぜ「国際平和支援法」なの?

自衛隊 他国軍に給油、輸送…
原発事故関連でも最終処分場を長期管理施設に

 新たな安全保障法制についての与党協議が事実上終わり、来月にも国会に関連法案が提出される。その中で、他国軍支援のための新法の名称を、「国際平和支援法」と名付けようとしていることが、特に引っかかる。自衛隊を戦場に近づける恒久法なのに、なぜ「平和」なのか。「積極的平和主義」と同じで、先には「戦争」がある。どんなに良い印象を与えようとしても、ごまかされるわけにはいかない。(榊原崇仁、三沢典丈)

(写真キャプション)2月、米カリフォルニア州のキャンプ・ベンデルトンで行われた日米共同訓練で、水陸両用車から降りて銃を構える陸上自衛隊員=共同
(写真キャプション)米海軍と海上自衛隊の共同記者会見。第七艦隊のロバート・トーマス司令官は、日本の集団的自衛権行使を容認する動きを評価した=3月、横浜市内に停泊中の米軍艦「ブルーリッジ」で
(写真キャプション)2月、タイ中部のウタバオ海軍航空基地で行われた邦人避難訓練

 安倍政権が自衛隊海外派遣の恒久法を検討し始めたのは、昨年七月。だが、名称については何の言及もないまま突然、今月の十四日の与党協議の場で、「国際平和支援法」と示された。
 恒久法のため、自衛隊の海外派遣に際し、これまでのような有効期限を定めた特別措置法は不要となる。国会の事前承認は必要だが、法案審議をしなくてもよい。
 国連決議を求めているほか、戦場での活動を禁止するなどの制限を設けてあるが、国際平和支援法ができれば、自衛隊による軍事行動中の他国軍への給油や輸送、医療が認められるようになる。こうした活動は「平和」とは、かけ離れたものになりかねない。
 明治大の西川伸一教授(政治学)は「実際は戦争する国をバックアップするということだ。『国際平和支援法』という名称は本質を隠している。『国際戦争支援法』『外国戦争支援法』と呼ぶ方がふさわしい」と指摘した。
 今月一日の参院予算委員会では、社民党副党首の福島瑞穂氏が、今国会に提出予定の国際平和支援法案を含む安保関連法案を、「戦争法案」と呼んで追及した。安倍晋三首相は強く反論した。「われわれが進めている安保法制にレッテルを貼り、議論を矮小化している。断じて甘受できない」
 ただ、十七日になって委員会理事の自民党議員が福島氏を訪ね、「戦争法案」から「戦争関連法案」への表現の修正を求めている。

重要影響事態?
 こうした自民の動きについて、西川氏は「法案の本質をオブラートに包もうとしているのが分かる。一方で、法案が戦争と深く関連していることを、自民自身が認識していることもよくうかがえる」と分析した。
 関連法でもう一つ引っかかるのが、「重要影響事態安全確保法案」だ。周辺事態法の内容を変え、名称も改める。こちらも国際平和支援法と同様、自衛隊派遣の条件が緩和され、戦争につかづくというニュアンスは法律名からはうかがえない。
 周辺事態法の「周辺」は朝鮮半島有事を念頭に置き、米軍の後方支援を想定していた。新たな法案は、地理的な制約を取り除くことに主眼を置いている。
 重要影響事態法が制定されれば、「わが国の平和および安全に重要な影響を与える事態」であれば、地球の裏側にも自衛隊は出向く。さらに、米軍以外の他国軍にも弾薬提供などの支援を行えるようになる。
 西川氏は「『重要な影響を与える事態』の定義は曖昧。解釈次第でどんな状況でも、そうなり得る」と言う。地理的要因をふまえ、「『地球の裏側派遣法』がこの法の正体だ。国民の反発を招かないための仕掛けなのだろうが、あまりに卑怯な手法というほかない」。

 安倍政権による「平和」という言葉を用いた印象操作は、いまに始まったことではない。専修大山田健太教授(言論法)は「安倍政権はメディア対策の一環として巧みに言葉づくりを行っている」と指摘する。
 二〇一三年九月、安倍首相が訪米中にスピーチで言及した「積極的平和主義」もそうだ。帰国直後の所信表明演説で、「わが国が背負うべき二十一世紀の看板」と強調し、安全保障戦略で「国際平和と安定、繁栄確保にこれまで以上に積極的に寄与する」ことを表明した。
 この「積極的平和主義」も、「平和」とは裏腹に、集団的自衛権を行使し、自衛隊が米軍などと共に国際紛争などの解決に当たるという意味が込められている。つまり、「積極的紛争介入主義」と呼んだ方が実情に近い。
 昨年4月に閣議決定した「防衛装備移転三原則」にもごまかしがある。字面からは、自衛隊の装備品を国内で移す際の原則のように読めるが、違う。武器輸出を制限してきた方針を百八十度転換し、原則として認める「武器輸出促進三原則」にほかならない。
 山田氏は「国際支援や平和など、誰もが賛成しやすい言葉を盛り込み、そこに別の言葉を加えることで新味を感じさせ、プラスの意味を作り出す狙いだろう」と指摘する。「行政・政治の言葉にこうした新しい言葉を組み込むことで、安倍首相は自分がやりたい政策を国民に浸透させようとしている」
 原発事故関連でも最近、名称変更があった。望月義夫環境相は十四日、東京電力福島第一原発事故で飛散した放射性物質を含む指定廃棄物を保管するための施設名を、「最終処分場」から「長期管理施設」に変えると発表した。最終処分をやめ、年月を経て廃棄物の放射線量が下がった後、廃棄物を搬出したり再利用したりするという。
 永久に廃棄物を受け入れることに候補地の住民が反対し、受け入れ先が見つからないことが、背景にある。しかし、「長期」が何年なのか説明がない。
 中間貯蔵施設の想定が三十年以内だから、それ以上なのは間違いない。結果として「半永久」の可能性も捨てきれず、住民からは「まやかしだ」と反発が出る。地方紙の河北新報は今後も「最終処分場」の名称を使い続けるという。
 ほか、「高度プロフェッショナル制度」もそうだ。勤務時間ではなく、仕事の成果に応じて賃金を決める新しい労働制度というが、実態は「残業代ゼロ制度」で、「過労死が増える」と危ぶむ声が絶えない。
 関東学院大に丸山重威教授(ジャーナリズム論)は自民と公明の安保法制協議について、「自公で対立点があるようなムード作りにすぎず、政府の方針を貫くためのパフォーマンスだ」と指摘した飢えで、マスコミ報道を批判した。
 「安保法制では昨年の閣議決定の時点で、集団的自衛権に基づく武力行使憲法違反との論点が既に示されている。にもかかわらず、与党がその後、出してきた新しい言葉に振り回されている。ほとんどの新聞、テレビ局は本質を報道できていない」
 丸山氏は「何が問題なのか、論点を的確にして報道していくことが必要とされている」と訴え、国民も表面上の名称にだまされないように求める。「安倍政権による計算づくの言葉は耳心地がよいかもしれないが、自分自身の頭で、個々の政策がどういうものなのか、判断しなければならない」
[デスクメモ]新たな安全保障法制によって、世界平和に貢献できるのなら、それもいいかもしれない。だが、事態が悪化することもありうる。自衛隊が紛争に巻き込まれるだけにならないか。軍事力というハードパワーよりも、文化や政治、経済交流、貧困支援といったソフトパワーを磨いた方が平和につながると思う。(文)
    −−「こちら特報部:なぜ『国際平和支援法』なの?」、『東京新聞』2015年04月23日(木)付。

        • -



Resize2136

Resize2137



Resize2142