覚え書:「今週の本棚・本と人:『寂しさの力』 著者・中森明夫さん」、『毎日新聞』2015年05月03日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『寂しさの力』 著者・中森明夫さん
毎日新聞 2015年05月03日 東京朝刊

(写真キャプション)中森明夫さん=竹内紀臣撮影


 (新潮新書・756円)

 ◇亡き母にもらって書けた 中森明夫(なかもり・あきお)さん

 天啓とまでは言わずとも、ふとした拍子にひらめくことは誰しもあるだろう。著者の場合、50歳という年齢が近づき、やたらと自分がため息をついていることに気付いたという。

 <俺はもしかして……。さみしいんじゃないか?>。三重県から15歳で上京し30年以上、一人暮らし。ましてや、「新人類の旗手」と呼ばれた人である。アイドルやサブカルチャーなど時代の先端を論じることに忙しく<さみしさとは無縁>と思っていたのに、どうやらそれは違うと分かってくる。

 きっかけは、老いた母の電話だった。「めっきり愚痴っぽくなってしゃべりまくるんです。ウザくて冷たくあしらったこともある。最後は泣きじゃくって『さみしい、さみしい』と訴える。どうすることもできない自分の無力さが嫌になって。そんな時、人はなぜさみしいんだろうとツイートに書いたんです」

 それを読んだ編集者の依頼で本書を書き始めた。母に読んでもらうためだった。易しく伝わるものでなければならない。書いては直しの繰り返し。ライター生活は30年を超す。これほど苦しんだことはなかった。そのうちに母の病状が悪化する。

 「変わり果てた母の耳元で生原稿を朗読すると、涙を流して『ありがと、ありがと』って。2日後に亡くなり、原稿も一緒に焼いてもらいました。僕には妻も子供もいない。20歳の時、父も死にました。今の暮らしを続けていて、つくづく自分にとって母が大切な人だったんだと分かりました。生前に本を完成できなかったけれど、逆に母から『寂しさの力』をもらった。その力で書けたんですね」

 刊行までに4年。両親の人生と自らの半生を重ね合わせた章を読むと、決して人ごとではない気がしてくる。著者自身、ここまで“裸”になって書いたことはなかったという。<人は、さみしいから、手を差し伸ばす。誰かの手を握ろうとする>。根源的な力が本書にはある。

 「さみしさを解消するタイプの本は多いけれど、僕の結論は、さみしさは解消できない。でも、力には変えられると思うんです」。55歳にして新たな境地を開いたようだ。来週日曜は母の日である。<文・中澤雄大 写真・竹内紀臣>
    −−「今週の本棚・本と人:『寂しさの力』 著者・中森明夫さん」、『毎日新聞』2015年05月03日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150503ddm015070007000c.html








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