覚え書:「【書く人】一方的な関係などない『大切な花を心にひとつ』 作家 山元 加津子さん(57)」、『東京新聞』2015年05月03日(日)付。

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【書く人】

一方的な関係などない『大切な花を心にひとつ』  作家 山元 加津子さん(57)

2015年5月3日

 
 世界中で愛されるサンテグジュペリの『星の王子さま』。幼いころから内藤濯(あろう)訳の本を何度も読んだ。あらためてフランス語の言葉に向き合い、自分の言葉で訳し直し、章立てに合わせて、出会ってきた子どもたちの素晴らしい姿などをエッセーで書きつづった。「忙しくし過ぎていたり、損得を考えてばかりだと見ることができない本当に大事なことを、子どもたちは心の目と耳を澄ませているから気が付ける」
 「子どもたち」とは、昨年まで三十四年間勤務した石川県内の特別支援学校などで接した自閉症や難病、意識障害などさまざまな障害や病気とともにいる子どもたち。彼らの思いや不思議で素晴らしい力を在職中から著作や講演で伝える。二〇〇九年に同僚の「宮ぷー」が脳幹出血で倒れた後は、意識障害への介護法や意思伝達の手段など、情報と人をつなぐ「白雪姫プロジェクト」も進める。「かっこちゃん」の愛称で知られ、日刊のメルマガ読者は六千五百人を超える。
 人と違うと感じがちな子ども時代、『星の−』に支えられた。子どもたちと向き合い、同僚のリハビリを支える中で同書が本当に伝えたかったことと彼らが教えてくれることは同じだと真に理解できた。
 内藤訳で気になる言葉があった。「友だちになろう」と誘う王子さまにキツネが「飼いならされちゃいないんだから」と断る。上下関係があるように感じた。元のフランス語には「時間をかけて慣れ親しむ」の意が。何度も出会って分かり合うことと理解し「まだ“特別な関係”じゃないから」とした。王子さまがバラを大切に思うのはバラのために「ひまつぶししたからだよ」とキツネが言う訳も、フランス語に還(かえ)って「あの花のために自分の時間を使って面倒を見たから」と書いた。二つをしっくり訳せたとき「やはりこの本は人を大切に思うことについて、自分が一人の大切な人間として、人とどう向き合い生きていったら良いかを教えてくれている」と納得できた。
 退職後の今も全国を講演して回る。石川県小松市内の自宅で執筆し、金沢市で一人暮らしをする宮ぷー宅へ通う。「子どもたちも、今は指やまばたきでしか意思を伝えられない宮ぷーも、人を助け、守り、喜ばせようとしてくれる。教わることがたくさん。一方的な関係などないんです」
 ハンダトシヒト画。三五館・一五一二円。(野村由美子)
    −−「【書く人】一方的な関係などない『大切な花を心にひとつ』 作家 山元 加津子さん(57)」、『東京新聞』2015年05月03日(日)付。

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