覚え書:「ドメスティック・バイオレンスと民間シェルター [著]小川真理子 [評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)」、『朝日新聞』2015年05月10日(日)付。

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ドメスティック・バイオレンスと民間シェルター [著]小川真理子
[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)  [掲載]2015年05月10日   [ジャンル]社会 
 
■支援者の視点から見える課題

 本書は民間シェルターへの調査を中心に、日本のDV(ドメスティック・バイオレンス)被害者支援の現況を整理。そのうえで、今後のDV対策を考えるために必要な思考法を提供する力作である。
 DVは90年代初めごろから社会問題だと認識されるようになった。2001年には「DV防止法」が制定されたが、それまで夫婦間暴力は、家庭内の痴話喧嘩(ちわげんか)として放置されてきた。それが今では、「DVは許されることではない」という合意が拡(ひろ)がりつつある。
 認知が進んだのは、女性運動の貢献が大きかった。運動は、社会的な啓蒙(けいもう)に限らず、防止法の成立以前より具体的な民間シェルターの開設などを進めてきた。男性恐怖に陥りがちな当事者に配慮して女性スタッフを中心に運営すること。支援者と当事者の間に権力関係が発生しないよう慎重たらんとすること。様々な工夫が行われてきた。
 DV対策は、相談や一時保護だけでなく、「人生の再出発」への支援が欠かせない。シェルター退所後も裁判などを闘わなくてはならず、加害者から身を隠して生活することも必要となる。カウンセリングを受けながら、新しい土地で雇用を獲得するなど、生活を再建するには困難が多い。民間シェルターが今なお果たす役割は大きいが、著者によるアンケートではその多くが、財政面や人材面での課題を抱えている。本書が訴えるように補助金の在り方を再検討することが急務だろう。
 「調査者」として一方的に研究して終わるのではなく、状況を変えるため、自らの当事者性と向き合いながら関わる「フェミニストリサーチ」の手法を採用している本書のスタンスからも、DV対策に関わる者が共有すべき「思想」の形が示唆される。アンケートデータの開示もありがたい。「支援者の視点」への寄り添いを通じて、多くの課題が見えてくる。
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 世織書房・4536円/おがわ・まりこ 66年生まれ。お茶の水女子大学基幹研究院リサーチフェロー。
    −−「ドメスティック・バイオレンスと民間シェルター [著]小川真理子 [評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)」、『朝日新聞』2015年05月10日(日)付。

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