覚え書:「今週の本棚・新刊:『霊性の哲学』=若松英輔・著』=服部英二・編著」、『毎日新聞』2015年06月07日(日)付。
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今週の本棚・新刊:『霊性の哲学』=若松英輔・著
毎日新聞 2015年06月07日 東京朝刊
(角川選書・1944円)
霊という語で一般に想像する、幽霊や亡霊の話を書いた本ではない。いや、ときに死者も関係するが。ともあれ、本書の「霊性」は、仏教学者の鈴木大拙(だいせつ)が『日本的霊性』で説いたような、超越の認識や求道性を示す言葉だ。本書は、いわば霊性の日本近代史。大拙はもちろん、民芸運動を起こした柳宗悦(やなぎむねよし)、イスラム学者として理解されがちな井筒俊彦、カトリックの哲学者、吉満(よしみつ)義彦らが、霊性への志向という一筋でつながっていると知らされる。
霊性の語は大拙の発明であるかのようなイメージもあるが、内村鑑三は大拙の50年前、既に使っていた。明治以降に発展、定着したこの概念は、しかしもちろん、キリスト教の枠に留(とど)まるものではない。本書が近代霊性史の先頭に置くのは、浄土宗僧侶の山崎弁栄(べんねい)だ。数学者の岡潔に影響を与えた弁栄は教義の枠を超え、阿弥陀如来(あみだにょらい)とキリスト教の神を同体異名だととらえた。
弁栄や元ハンセン病患者の谺(こだま)雄二といった、通常は思想史が触れない人物も、霊性を軸に大拙らと並んで浮かび上がった。超越と有限な自己との対話を自らも生きる、著者の姿勢を感じる。(生)
−−「今週の本棚・新刊:『霊性の哲学』=若松英輔・著』=服部英二・編著」、『毎日新聞』2015年06月07日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20150607ddm015070019000c.html