覚え書:「書評:子ども文化の現代史 野上 暁 著」、『東京新聞』2015年06月28日(日)付。

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子ども文化の現代史 野上 暁 著

2015年6月28日
 
◆「良識」を破る遊び心
[評者]永江朗フリーライター
 著者は子ども向け図書の出版に長くかかわってきた。敗戦の前々年に東京で生まれ、焼け野原からの復興と共に成長した。小学館に入社して「小学一年生」に配属されたのが一九六七年。後には小学館クリエイティブの社長も務めた。本書は児童文化の研究書というよりも、子どもたちが享受した数々の作品やグッズや遊びを紹介しながら、著者ならではの視点でとらえた戦後子ども文化史である。
 一読して驚くのは、子どもの娯楽とメディアとの濃厚な関係だ。敗戦間もなくのラジオ放送劇「鐘の鳴る丘」にはじまり、「少年サンデー」「少年マガジン」など漫画誌の創刊、やがてテレビが強い影響力を発揮するようになる。考えてみれば「黄金バット」など紙芝居もメディアであるし、現代のスマホ・ゲームもメディアといっていい。
 これら子ども向け娯楽の多くは、登場したとき、低俗なもの、不健全なものとして、一部の大人たちから非難を浴びた。陰惨な犯罪が起きると、それと結びつけられることすらあった。ところが、いまはどうだろう。「クールジャパン」などというかけ声とともに、漫画やアニメ、ゲームなどとその関連商品を積極的に輸出しようとしている。かつてのバッシングなどまるでなかったかのように。オトナたちの「良識」が、いかにあてにならないかよくわかる。
(大月書店・2160円)
 のがみ・あきら 評論家・作家。著書『おもちゃと遊び』『越境する児童文学』。
◆もう1冊 
 加藤理著『駄菓子屋・読み物と子どもの近代』(青弓社)。読書や消費の傾向から、子どもの社会参加の姿を探る。
    −−「書評:子ども文化の現代史 野上 暁 著」、『東京新聞』2015年06月28日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015062802000188.html



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子ども文化の現代史: 遊び・メディア・サブカルチャーの奔流
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