覚え書:「今週の本棚・この3冊:インタビュー 木村俊介・選」、『毎日新聞』2015年07月05日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:インタビュー 木村俊介・選
毎日新聞 2015年07月05日 東京朝刊

 <1>バレンボイム/サイード 音楽と社会(アラ・グゼリミアン編、中野真紀子訳/みすず書房/3024円)

 <2>スタッズ・ターケル自伝(金原瑞人、築地誠子、野沢佳織共訳/原書房/3672円)

 <3>説教者キング アメリカを動かした言葉(リチャード・リシャー著、梶原壽訳/日本キリスト教団出版局/8640円)

 口調の癖を活(い)かし、「私は」「僕は」と語り手の一人称で記す。そんな取材を続けて、約19年経(た)つ。インタビューでは数値や情報とは別の現実に出会える気がする。音楽家と哲学者の対談書『バレンボイム/サイード 音楽と社会』で、指揮者のバレンボイムが語る次の言葉はインタビューとは何か、の本質にも通じるのではないか。

 「音楽というのはなにかの表明ではないし、存在でもない。それは生成なのだ。音楽はなにか重要な一節を表明するものではない。そうではなくて、どのようにしてそこに至るのか、どのようにそこを去るのか、どのように次の段階へ移行するのか、そういうものなんだ」 

 表明ではなく生成。インタビューでも、一回限りのやりとりの生成にこそ、語り手やその人の属する社会の現実がにじむ。どんな現実か。インタビューを生涯続けた米国の作家による『スタッズ・ターケル自伝』では、それは困難な時代が市井の人々にどう打撃を与えたか、だと語られる。1929年の大恐慌を経て、多くの人に取材したターケルは「人は特殊な状況に置かれたときどうふるまったかが問題で、どんなレッテルを貼られたかは問題ではない」と見つける。個人の良心を集め、社会に存在するある種の暴力を発見できるのがインタビューなのだ。

 米国の説教学者による『説教者キング』は、声のリズムにこそメッセージがこもる、と示す点でインタビューを考えさせられる。著者はキング牧師の説教群が限りある定型文(セットピース)の組み合わせからなると検証する。その定型文への黒人教会や口承伝統によるリズムの影響の大きさも指摘する。強度を持つ言葉の背後にはある地域特有のリズムの歴史があるとわかるのだ。同書を自分の仕事に引きつけ、日本らしいリズムの生まれる場を探した結果、最近では書店員や漫画編集者など何かに仕える黒衣にインタビューをするようになった。 

 では、日本らしいリズムとは何か。表面では波風を立てず、本音はなかなか言えない組織に囲まれた静けさにある、というのが私の見立てだ。社会でのさまざまな意味での暴力も、多くは見えにくい形で存在しているから根が深い。だからこそ、成功者や発言者に聞くより、自分の持ち場で組織の矛盾を痛感している観察者の声にこそ、いまの日本らしさが宿ると感じる。海外を知るほど、それとは異なる文脈を持つ日本を、現実に即した方法で捉えたくなるのだ。
    −−「今週の本棚・この3冊:インタビュー 木村俊介・選」、『毎日新聞』2015年07月05日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150705ddm015070043000c.html



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