覚え書:「書評:二宮尊徳 大藤 修 著」、『東京新聞』2015年07月05日(日)付。

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二宮尊徳 大藤 修 著

2015年7月5日
 
◆薪を背負い読むのは何?
[評者]出久根達郎=作家
 二宮尊徳先生、といえば、いかめしい。江戸時代末の、偉大な農本主義者にして農政家である。六百に余る町おこし村おこしに成功した。その功によって農民から士分にとりたてられた。
 私たちには二宮金次郎の通称の方が、なじみがあるだろうか。ご年配の方なら、小学校の校庭に建っていた、薪を背負って本を読んでいるチョンマゲ少年の像を思いだすだろう。あの少年が読んでいた本は、何の本か。誰から借りたのか。少年は農家の出なのに、二宮という姓を用いているのはなぜか。いろんな疑問がわいてくる。
 尊徳の伝記は、わんさとある。しかしこれらの事柄に言及した本は、これまで無かった。たとえば貧しい金次郎は、田植のあとに捨てられた苗を拾い集め、荒地を起こし植えて一俵の米を得た。この体験で「小を積んで大を致す」真理を覚ったとあるが、税金はとられなかったのだろうか。丸々、自分の物にできたのか。税を払う私たちの素朴な疑問だ。
 払わなくてよかったのである。そう教えてくれたのが本書である。鍬下年季(くわしたねんき)といい、荒地を開発した者は何年か課税が免除された。収穫した物は全部自分の収入になった。少年時代の本も友人からもらったもので、歩きながら読んでいたのは、通説のように儒教の書『大学』ではない。なぜなら二十五歳で儒学の通俗解説書を購入している。『大学』はその後に読んだはず。
 二宮の苗字(みょうじ)については、江戸時代は苗字は武士のもので庶民は禁じられていた、というのは俗説で、私的には用いていたのである。
 というように懇切に解説されている本書だが、人物叢書(そうしょ)の性格からか、中年期以降の、いわゆる尊徳先生になってからの活動ぶりは、一般の読者にはややむずかしい。つまり村おこしの手法など、数字が入るだけにわかりにくい。具体的なエピソードを示してほしかった。村民がいかに感謝したか、感謝ぶりが成功のあかしである。
吉川弘文館・2592円)
 おおとう・おさむ 東北大名誉教授。著書『日本人の姓・苗字・名前』など。
◆もう1冊 
 二宮康裕著『二宮金次郎−日本人のこころの言葉』(創元社)。二宮の報徳思想の内容を、著作や日記、書簡をもとに言葉編と生涯編で解説。
    −−「書評:二宮尊徳 大藤 修 著」、『東京新聞』2015年07月05日(日)付。

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