覚え書:「ルポ:東アジア文学フォーラム/上 「政治」超え調和目指し 日中韓の作家ら、延期経て中国で再開」、『毎日新聞』2015年07月16日(木)付夕刊。

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ルポ:東アジア文学フォーラム/上 「政治」超え調和目指し 日中韓の作家ら、延期経て中国で再開
毎日新聞 2015年07月16日 東京夕刊

(写真キャプション)フォーラムで発言する莫言さん(左)=6月13日

 日本、中国、韓国3カ国の作家や詩人、批評家が集う「東アジア文学フォーラム」が6月、中国・北京、青島で開催された。2008年、第1回のフォーラムを韓国・ソウルで行い、10年の日本・北九州に続いて3回目の開催。今回で3カ国を一巡した形だが、隔年開催を目指していた大会は12年、直前になってホスト国の中国側の申し入れによって延期になっていた。日中間の外交問題が背景にあるとみられる。政治的要因による浮き沈みが激しい東アジア地域の未来を、文学者たちはどう捉えているのか。5年ぶりに再開したフォーラムの模様を2回に分けてリポートする。【棚部秀行】

 晴天に恵まれた北京市内のホテル「北京国際飯店」に、3カ国約30人の文学者が会した。各国のメディアや編集者、翻訳者らも同行。回を重ねたことで顔見知りが増え、会場には談笑の輪ができた。日本からは作家の島田雅彦さんを団長に、いしいしんじさん、江國香織さん、谷崎由依さん、茅野裕城子さん、中島京子さん、平野啓一郎さん、詩人の平出隆さん、文芸評論家の川村湊さんの9人が参加した。

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 中国作家協会主席の鉄凝さんは、開幕レセプションのスピーチや記者会見で「3カ国の文学は同じツルに咲いている花のようだ。それぞれが美しく咲き誇っている」と語った。そして延期について、「開催への原動力は消えたことはなかった。なぜ延期になったかは、皆さんご存じのようだ」と話した。12年にノーベル文学賞を受賞した莫言さんは会場内で発言を求められ、「文学は『暫(しば)し』(短期間)のことより、『記憶』として残っていく。作家の交流が増えて、さまざまな文学発展とお互いの理解を促すだろう」と述べた。

 <時には一歩退くことが、すなわち一歩進歩することだ>

 韓国作家団代表の文芸評論家、崔元植(チェウンシク)さんは、中国の古い言葉を引用した手紙を鉄凝さんに送り、再開への期待を示してきた。崔さんは「東アジアは多くの争いがあった時代を完全に脱してはいない。だが、この地域に調和と平和をもたらすことが、フォーラムの趣旨だ」「今北京で丸い円が完成した」と力を込めた。

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 今回のテーマは「いかに文学創作のインスピレーションを得るのか」「文学と家庭、社会」。両テーマについて発表や議論がなされ、作家間、各国間での大まかな共通点が浮き彫りになった。特にグローバリゼーションや都市化の波に一様にさらされている「家族」のあり方についての議論が印象に残った。

 急速な経済発展が進む中国では、社会の基礎的構成要素でもある家族を巡る価値観が激変しているという。一人っ子政策の影響もある。文芸評論家、李敬沢さんは「近代化の結果、親はいつも遠方、海外にいて、家族がどんどん小さくなっている。『おじさん』『おばさん』の言葉の意味を知る機会がなくなる。人間関係が大きな試練に直面し、変化する家族を題材にした作品が多い」と指摘した。一方、文芸評論家の川村湊さんは「もうなくなってしまった家や親子、家族の結びつきをテーマに、新しい何かを模索しているところが、3カ国の作家には共通していると思う。文学はあらかじめ壊れたところから出発して、そこにかえっていくものだ」と述べた。=次回は23日掲載
    −−「ルポ:東アジア文学フォーラム/上 「政治」超え調和目指し 日中韓の作家ら、延期経て中国で再開」、『毎日新聞』2015年07月16日(木)付夕刊。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150716dde014040003000c.html





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