拙文:「読書 小林公ニ『アウシュヴィッツを志願した男』講談社 “巨悪”に抗い続けた生涯」、『聖教新聞』2015年07月25日(土)付。

Resize3117


        • -

読書
アウシュヴィッツを志願した男
小林公ニ 著

“巨悪”に抗い続けた生涯

 ナチスの絶対悪の象徴であるアウシュヴィッツ絶滅収容所。生還者の一人プリーモ・レーヴィが「人間であることの恥辱」と読んだ過酷な世界に自ら志願した人間がいる。ポーランド軍大尉ヴィトルト・ピレツキである。本書は、彼の激動の生涯をたどる。
 第2次対戦は祖国ポーランドを消滅させたが、ピレツキは戦い続けた。収容所に潜り、抵抗組織を構築。収容所脱走後も反ナチス逃走を続けた。戦後に成立した親ソ政権下でも、ピレツキは反全体主義を貫くが、国家反逆罪をデッチ上げられ、処刑されるーー。
 ピレツキの生涯とは、人間を“無効化”するあらゆる狂気に抗い続けた歩みといってよい。左右両極のナチズムとスターリニズム全体主義として同根だが、見抜けない同時代人は多かった。しかし「その生き方において自由であった」ピレツキは対峙し続けたのだ。
 「自由であり続けるためには、現実から目をそらさずに考えつづけること、そしてどう行動するかが問われる」と著者。
 日本の内外を問わず、自由や尊厳を踏みにじる暴力や侮蔑的な言葉は、今もあふれている。“巨悪”に抗う力の軌跡を描く本書を、戦後70年の節目に紐解きたい。(氏)
講談社・1836円
    ーー「読書 小林公ニ『アウシュヴィッツを志願した男』講談社 “巨悪”に抗い続けた生涯」、『聖教新聞』2015年07月25日(土)付。

        • -




Resize3123